こんにちは。英国 イーストアングリア大学で国際開発学を学んでいるIgari Yokoです。
今回は、インターンシップを通して分った、ネパールの教育事情についてお話します。
ネパールは南アジアに位置する民主共和国で、最貧国の一つでもあります。内陸国で大国・中国とインドに接し、地形的にも気候的にも多様な自然環境に恵まれています。(ただし、都市部での公衆衛生は問題あり!)
後発開発途上国に分類されていますが、近年は都市部での近代化が進み、ヒマラヤ山脈などの観光資源と海外労働者からの送金のおかげで経済が活性化しており、確実に発展への道を辿っています。
インド・アーリア系の民族やチベット・ミャンマー系民族など100以上の民族と言語が存在しする多民族・多言語国家でもあり、宗教も仏教や元国教であったヒンドゥー教などが混在します。また、カースト制度も社会に根付いています。
今回、私は現地のNGO、サルタック・シクシャ(以下、サルタック)でインターンとしてカトマンズ盆地のプルチョックと言うエリアに滞在していました。カトマンズ盆地とは、首都のカトマンズ、パタンとバクタプルからなる一帯で、私の居た地域はかなり発展していました。
団体名は、ネパール語で「有意義な教育」という意味で、サルタックでは教育の質と子ども達の識字能力の向上を目指しています。特に、低学年の子供たちに力を入れており、地域の小学校で読み聞かせ活動などを行っています。
私は昨年の夏の2か月間、途上国の問題を読み解くと共に、幼児教育を学び、実際に教員として働いていた経験を生かす為、サルタックにお世話になりました。
https://youtu.be/I4fPBfDSLgs (←簡単なまとめ動画はこちらからどうぞ)
まずは、ネパール全土での初等教育について見てみましょう。
ネパールにおける入学率と修了率はめざましく改善しています(図1を参照)。これは今までの政策やNGOなどの活動の成果と言っても良いかもしれません。しかし、問題も多く、入学率も100%には届いていません。毎年約10%の子ども達が、小学校の段階にも関わらず留年しており、未だに17万人以上の子ども達が小学校に通っていません。 (2014年の資料を参照)
最近では都会の子ども達の多くが私立の小学校に通うケースが増えてきています。良い教育を受ける事はその後の人生での出世や成功に繋がると考え、子ども達の教育に熱心になる親が増えてきているためです。
しかし、日本で言う公立小学校にあたる、地域学校では多くの問題を抱えており、そこでの教育の質は、決して高いとは言えません。
1. 偏った勉強内容
日本の小学校と違い、ネパールの地域小学校では総合的な学習の時間や日本で当たり前の図画工作の授業も一般的では無く、テストに重きを置いた偏った勉強ばかりをしています。学校に居ても、子ども達は自由に本を読む事が出来ません。本は大変貴重で高価な物なので、図書館には常に鍵がかけられていて、子ども達は立ち入る事が出来ないのです。
2. 不十分な学校設備
また、勉強をする環境も良いとは言えません。教室には電気は無く、外の光を頼りにノートを取ります。冷暖房器具もありません。給食が配布される学校も少なく、休み時間にスナックでお腹を満たす子ども達の姿も見られ、掃除の時間などもありません。
3. 教師による暴力
日常的に行われている教師による暴力も大きな問題とされ、子ども達が学校を辞めてしまう一番の原因とも言われています。一度学校を離れてしまうと、子ども達が教育を再び受ける機会は殆どと言っていいほどなくなってしまい、多くが市内で違法に働く児童労働者になります。児童労働撲滅の為にも、子ども達が学ぶ事が出来る環境作りと教育の質の向上が求められます。
ラーニングセンターで各自の課題をする子ども達
地域学校へ通う子ども達にはいつくか共通した特徴があります。
1. 移民である
子ども達の殆どは移民です。先にも述べたように、ネパールではいくつもの言語が存在し、子ども達の母国語は出身地によって異なります。学校では公用語であるネパール語を勉強しますが、ネパール語は大変複雑で、簡単に身につくものではありません。
2. 想像力が欠如している
子ども達は教科書以外の本に触れる機会が少なく、想像力があまり豊かではありません。サルタックが運営するラーニングセンターで子どもたちがクラウドファンディングのドナーに感謝の気持ちを伝える為に、カードを作成する練習の場面に立ち会った際、殆どの子ども達の目に前にあるカードは15分経っても白紙のままでした。彼らにとって、言葉からイメージを膨らませて、絵を描く事は安易ではないのだと気付かされました。
3. 公式学年年齢を上回る傾向
サルタックが活動を行っている小学校(1年生から5年生)では、学年に関わらず10歳前後の子どもがクラスで多く見られました。田舎の両親には子どもに教育を与える余裕や意思が無い場合が多く、都会に来るまで十分な教育を受ける事が出来ななかった事が原因だと思われます。
4. 家庭内児童労働者の可能性
地域によっては、家族ではない人の家に住み込みで働きながら学校に通っている子ども達もいます。彼らに「誰と住んでいるの?」と聞くと「おじさん」または「おばさん」と答える事が殆どです。
ネパールでは相手に敬意を払い、おじさん・おばさんと呼ぶ習慣があり、彼らの言うおじさん・おばさんは血縁関係がある親戚ではなく、雇用者であると思われます。しかし、その子どもたちは教育の重要性を理解しており、学校へ通いたいがために、児童労働者であることを隠すケースが多く、家庭内児童労働の子どもを発見・保護する事は簡単ではありません。
インターンはボランティアとは違い、アウトプットを求められます。私は、通常の学校訪問やラーニングセンターでの観察に加えて、日本の教育制度の紹介、新しいゲームの提案と子ども達への関わり方への助言、これまでのインターンの記録の作成、並びにサルタックの主な活動である読み聞かせ活動のテスト結果の分析と発表を行いました。
2カ月間の日々の観察、調査、並びに、現地の学生やスタッフとの関わりを深める中で、ネパールでは学校が他のsocial institutions (社会慣習・制度)と関わりを持つ事が難しい状況にあり、教育機関そのものが社会から孤立していると感じました。実際、授業参加や地域活動の時間も無く、両親、または社会の大人達が教育の重要性を知る機会はあまり無い事が分りました。
子ども達の問題は学校や教室だけに留まらず、日常生活にも垣間見えます。ネパールには教育を始め、ジェンダー、貧困、格差など様々な問題が点在し、それらは全て複雑に絡み、影響し合っています。教育問題は他の社会的問題と密接に関係しているため、社会規範などを取り込んだ、より大きな枠組みでの解決策が必要だと感じました。
途上国での長期間の滞在は今回が初めてで、本やジャーナルからは学べない多くの事を感じ取りました。途上国が抱える問題を目の当たりにし、イギリスに戻ってからも社会人類学などの授業で、ネパールでの学びが活かせていると実感しています。今回の貴重な体験を支えてくれた方々に感謝です!
今年の夏はインドでジェンダーについての調査、もしくはインターンシップを行う予定です。皆さんも、次の夏の時間を有意義に活用してみてはいかがでしょうか?
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
英国 University of East Angliaで人類学を軸に国際開発学を学んでいます。短期大学で幼児教育を学び、職務経験を経て、2014年に渡英。現在、大学の日本人留学生大使としても活動中。facebook 日本人学生による留学体験記