新しい人に出会うと必ず聞くこと、聞かれる質問、「あなたは何人ですか?」
私は躊躇することなく「日本人です」と答えます。しかし、本当はそんなに簡単なことではないのかもしれないと思う出来事がありました。
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台湾では今生きている人にも「過去」が強い影響を与えています。例えば、日本統治期に日本語で教育を受けたり、日本軍として戦った台灣の人々の中には、自分のことを日本人だと認識している人もいるそうす。日本のみならずオランダ、清朝、国民党など外からの圧力に支配されつづけてきた台湾だからこそ「自分は何人なのか?」という問いに答えるのは簡単ではないはずです。それを実感した台湾人との会話をいくつか紹介したいと思います。
Aさん:「父方の祖母は台湾人。祖父は中国人。」
その区別はどのようにしているのでしょうか。
聞いてみると「祖母は台湾で生まれたから台湾人で、祖父は国民党期に蒋介石と共に台湾に渡ってきたから中国人。だから祖父は祖母が持っていた日本語の歌のテープなどは全て処分させたらしい。」と、とても細かく教えてくれました。
「祖母は今はもう日本語は忘れてしまったし、日本のこともあまり覚えていないみたいだけれど、もう一人の祖母は日本語教師をしていて、自分のことを日本人だと思っていたみたい。だから私の家は父方の家族は反日だけれど母方は日本が好き。そして私も日本が好き。」とも。
そんな彼女にあなたは何人なの?と聞くと「私は台湾人」と迷わず答えてくれました。
台湾人の学生からはこのような話をよく聞きます。彼らは、自分の家族がどのような過去を歩んできたのかをとてもよく知っています。しかし今の若い世代で自分のことを「中国人」や「日本人」と言う人にはこれまで出会ったことがなく、台湾の学生たちは歴史を踏まえた上で自分たちを台湾人だと認識していると分かります。
Bさん:「海外旅行に行ったことがある?と聞かれたとき、中国に行ったことがあると答えたら、中国人の子がそれは海外旅行なの?国内旅行では?と言ってきた。」
Cさん:「台湾は中国とは違う。でも、それが何で表せるのかはわからない。服装?食べ物?(そんな表面的なものではないはず。)でも、日本に統治されたせいで(おかげで)私たちは中国とは違った道を歩むようになったから、日本に統治されたか、されていないかで私たちは区別出来るようになったと思う。自分では自分を台湾人だと思ってはいるけれど、私の親は中国人だし、私は何人なのか、私の息子たちが何人になるのか、(本当は)よく分からない。」
現代の台湾人には自分たちは中国人とは違うという認識は強くありますが、一体何が違うのかと聞かれると、それをうまく表現できないことも事実なようです。
私には日本人以外の選択肢がないからこそ、今まで自分はなぜ日本人かなど考えたこともありませんでしたが、彼らは様々な選択肢があるなかで、自分を台湾人だと認識しています。話を聞いているなかで、それには「中国」や「日本」ではなく、この場所で生きているからという認識が強く影響していると感じました。私のようにずっと日本で生きてきたのだから日本人であることが当たり前であるのとは違い、歴史を踏まえ、他者と触れ合うなかで自分たちの場所として台湾を認識しているのではないかと思います。
留学することを決めた理由のひとつに、関心のある地域・国で現地の学生と共に学ぶことは日本では経験することができないからというのがありました。
そう言ってはいたものの、実は留学する前は半信半疑で、文献を読めば日本でだって勉強はできると思っていました。しかし、実際に留学生活を経験してみて、そうではなかったと今は確信しています。
例えば、台湾は日本に統治された歴史から「自分のことを日本人だと思っている台湾人がいる」と知ってはいても、それを「事実」として「理解」することは別のもので、理解するのは文字や映像だけでは簡単ではありません。
留学生活の中で実際に台湾人から話を聞くだけで、それらの「知っていること」が「事実である」という感覚が一気に沸き起こります。いくら便利な世の中になっても、対面して話を聞くことは何かで代用できるものではなく、実際にその場所にいくこと、話を聞くことは人・地域・国に対する理解を深めるためにとても重要なことです。
英語圏外に留学を考えるとき、そこでは何語で勉強するのかということが留学を決める基準になると思います。英語圏以外でかつ授業の大半が現地語開講の場合、語学留学のようになります。実際に今は中国語能力を伸ばすことが最優先の課題です。しかし、語学留学になるのは嫌だという理由から「現地」を選択肢から外すのは勿体無いです。
アジア研究が盛んな英語圏の大学に行けば確かに「勉強」はできるけれど、それはあくまで机上での学びです。例えば歴史学は史料を読み、過去の事象を解釈する学問ですが、先述してきたように台湾人にとって歴史は決して過去のものではなく、過去があるから今があるというのが「人」や「街」を通して感じられます。
このような理由から、大学での「勉強」という面では確かに英米に比べて劣ることは否めませんが、それよりも貴重な体験ができているので、台湾に留学することを決めてよかったと思っています。
一人一人の話が台湾人全員の意見になるということはありません。しかし、社会を創造しているのはその社会で生きている人々であり、彼らと対話をすることでしか得られないものがあると思います。今後も対話から考える「台湾」や「中国」について書いていきたいと思います。
台湾・台中にある東海大學に交換留学中の国際基督教大学3年生です。旅行では気づかないような台湾の魅力をお伝えできればと思います!