9月17日、「未来国会2016決勝戦」が都内で行われた。
「未来国会2016」とは、30歳以下の若い世代の参加者が、自分が総理大臣になったつもりで30年後の日本のビジョンを競い合う、まさに「若者のための国会」だ。
未来国会はNPO法人ドットジェイピーが主催しており、同団体は議員事務所で政治家を間近に見れる「議員インターンシップ」も行っている。未来国会の参加者のうち希望者はこの議員インターンシップにも参加でき、実際に政治を行う政治家にアドバイスをもらいながら自分達の政策を練る。
東北・東関東・東京・東海・関西・中国・九州の各地域で開催されていた地方大会の優勝チームが集まった今回の決勝戦。「違和感を起点に」というテーマで、地域・国家規模で変化を起こしたいと意気込む学生たちが参加し、それぞれの改革を打ち出した。
では、今回の優勝チームを中心に上位3チームのプレゼンテーションを紹介しよう。
3人いるチームメンバーのうち1人が不在という状況で見事なプレゼンを披露した、鈴木けんぽう事務所チーム。
彼らは、全世代が豊かな人生を送ることができる「アクティブジャパン」という政策を打ち出し、「週26時間労働制」「リカレント大学」「お祭り庁」という3つの柱を提示した。
「週26時間労働制」は、働きすぎる日本人がより充実した生活を送るための案。男性は25-30時間、女性は22-27時間働くのが理想とするメルボルン大学の研究結果に加え、30年後には機械化が進んでいると仮定したという。「リカレント大学」は、互いに学び教え合う、生涯学習をテーマとした案。授業料が無料なので、授業や仕事のほかにも学びたい、老後の生活を豊かにしたい、そんな好奇心の強い様々な年齢層に需要がありそうだ。「お祭り庁」は、人々の余暇の充実・促進と地域活性化を同時に目指した案だ。世代を超えたつながり、文化の継承に加え、日本文化を海外に発信する有効な手段でもある。
内容として際立っていたのは、やはり従来の仕組みや考え方を覆すようなアイディアの数々で、将来の社会への希望がこもったプレゼンテーションだったように感じた。
発表後のインタビューにも穏やかに応じてくれた加藤優芽さんと宮島靖明さん。二人の口調からは、先輩・後輩という間柄でも仲の良さや信頼感をうかがうことができた。
「今の日本の政策を12個の分野に分け、若者目線でどれをどう変えたいかを話し合いました。”ある程度仕方ないけどモヤモヤする閉塞感”を今回のテーマである”違和感”と結びつけて政策を考えていきました。」
未来国会に参加した理由について、「主催団体にいる大学の先輩から、実際に政治の世界にいる人と話し合いができることを聞いて、おもしろそうだと思って参加した」と話してくれた、加藤さん。一方の宮島さんは「大学にいる間に形に残る何かをしたいと思って、興味を持っていた政治に関するインターンシップを探したのがきっかけ」という。
二人とも興味本位で挑んだ大会だったが、「自分のためになる濃い時間を過ごせた。この発表のためにガストにこもって3人で作業してたんですけど、そうやって一つのものを作り上げた経験は、今後自分たちがどんな道に進んでも生きてくると思います。」と語ってくれた。
また、「年を重ねると大人の視点を持つことが必要になって、どうしても現実と向き合わなければいけない場面が増えてくると思う。それを分かっているからこそ、今回は若者目線を大切にできたんだと思います。いい意味で子供の気持ちを忘れない大人になりたいと思います。」と、話してくれた。
ステージに登壇した4人は、発表早々、物語を語るかのような口調でプレゼンを始めた。決勝戦という場ながら緊張のかけらも見せなかった彼らは、見事な語りで観客を魅了しながらプレゼンを進めていった。
彼らは、国民全員が子供に投資する「みんなパパママ計画」を実現させるため、「SAPO親制度」と「子どもファンディング」という2つの政策を柱として提示。さらに年金制度の廃止を提案した。
これからは高齢者ではなく子ども、つまり未来に投資すべきだということだ。
「SAPO親制度」は、22歳もしくは大学卒後後の独身もしくは子どものいない夫婦が、全国にいる相対的貧困にある子どもたちのために、教育支援金を税金(義務)として納めるというもの。「子どもファンディング」は、やりたいことがあっても資金がない子どもたちに、こちらは金銭ではなく物資を投資するというもの。
どちらもマイナンバー制度を利用することで不正利用を防ぎ、義務であっても金額を選ぶことができるので負担が少なくなるという策だ。
未来のある子どもたち。しかし現実は、貧困が原因で十分な教育を受けさせることができなかったり、子どもにやりたいことがあるのに資金がないから諦めさせざるを得なかったりする家庭が多い。そんな希望のない未来に「違和感」を抱いた彼らの発表は非常に力強く、トップバッターとして強烈な印象を残していった。
決勝戦で唯一、議員インターンシップに参加せずに挑んだチーム・民菜党のプレゼンテーションでは、登壇したとたんに会場が沸くという異例の事態が起こった。
登壇者は三重県から来た3人組。農家の恰好をして語ったのは、食料自給率を支える農業の未来だ。まるでお笑いコンビのようなボケと突っ込みの息の合ったパフォーマンスとテンポの良さで、たくさんの観客の笑いを誘っていた。
プランはずばり、野菜や食物の安定した国内供給を目指す「週休二日制の農家」。農家は古臭い、農業は大変というイメージを持つ人が多いという「違和感」から、農家が職業の選択肢になる未来を描いてくれた。
彼らの政策は、通勤型農業という形態を生み出して農業就業者を増やすという一点に集中している。
まず、国営で工場を運営し、人々が公務員として働くことのできる環境づくりから始める。そこでは、他の農家への影響を考えて自給率の低い農産物を中心に生産する。この国営食物工場が機能するようになったら、第二段階として公務員でない人々も農業を職業として選び始める、つまり通勤型農業の民営化を始めるという。その際、政府は通勤型農業を始める農家に対し、初期費用を援助するなどの政策を打つことで、農業に対する壁を低くする。
若者らしさ全開の発表で印象強いパフォーマンスの裏には、地元の村の人に後押しをもらってステージに立てたことへの感謝と恩返し、農業がもっと盛り上がってほしいという強い思いが前面に出ていたように感じた。
このように、ユニークなプレゼンテーションがそろった戦いとなったが、審査員からは「私たちをあっと驚かせてくれるプランを期待していましたが、やはり目から鱗の政策はなかなか出てこなかったですね。」と、厳しい意見が聞かれた。
30年後を想定して予算まで設定し、従来の国家政策とは一線を画すプランを打ち出すのは、社会に出たことのない学生にとって簡単なことではない。TPPや憲法9条改正、スマートフォンの急速な普及、そしてテロリズムが世界を震撼させるなんてことを、今から30年前に誰が予想できただろうか。予測不能の未来を見据えて政策を決めていかなければならない。そんな政治の難しさを、多くのオーディエンスが感じたことだろう。
今の政治に行き詰まりを感じているという意見も多い一方で、政治というトピックは敬遠されがちで、「わからない」と簡単に避けることができる。先日のニュースで報道された「次の総理大臣に誰を支持したいか」という世論調査の結果、一番多かった意見は「誰もいない」だという。このように、政治家と国民の間に溝があるのも事実だろう。そして、18歳選挙権が施行され制度として前進してきているように思えるが、若者の政治離れが課題として根強く残っていることに変わりはない。
しかし、その難しいテーマに対して、「日本の将来を変えたい」と真剣に考えて議論する若者がたくさんいることも事実だ。
未来国会を主催するNPO法人ドットジェイピーは姉妹大会である「未来自治体」も冬から春にかけて開催している。
今回の決勝戦で希望と熱意のこもった変革のアイディアを聞いた若者が、触発されてまた社会を変えようと挑戦する。その連鎖が大きな変化を生んでほしい。
2015年8月から2016年6月までスウェーデンに交換留学してます。 写真を撮るのが趣味です!インスタグラムはこちらをご覧ください: p0mm0p