「イギリスは食べ物がまずいと有名だけど実際どうなの?」「最近はよくなってるらしいけど実際どうなの?」という質問をされることがよくあります。
私は「作った方が美味しいです」「美味しいものは高いです」と答えていますが、イギリス在住の皆さまはどうでしょうか?
茹ですぎ、味ない、ポテトばっかり、サンドイッチのくせに高い、が典型的なところだと思います。
初めて来た頃は、食べれるじゃん!と思っていましたが、一度日本に帰れば、その美味しさを改めて感じることになります。「美味しいってこういうことか」ということになり、帰国後に太る人も多いようです。
……そしてやはり、世界的にもイギリス料理の評判は良くありません。
フランスの元大統領曰く「食べ物がまずい国の人は信用ならない」「イギリスがこれまでヨーロッパの農業のためにしたことと言えば狂牛病だけだ」。(ひどすぎますね。)
あの中立性を保つべきウィキペディアでさえ、
「良い素材を茹で過ぎる事によって台無しにしているという観点も存在する」「イギリス料理が不味いのは、イギリス人自身が認めるところなのである」
などと「イギリス料理がまずい」と評されていることについて長々と解説しているのです!
では、BBC Americaがイギリス料理に関するジョークに対してどう弁護しているのか見てみましょう。
誤解その1. イギリス料理には味がない。
イギリスのマスタードを食べたことがないのですか?イギリスにおける香辛料の歴史は長く、香辛料の貿易でも大きな役割を果たしてきました。そしてあらゆる国々からのエキゾチックな味付けをこの国にもたらしたのです。もちろん元植民地であるインドからの影響を過大評価しているわけではありません。
誤解その2. イギリス料理は茹ですぎか焼きすぎのどちらかだ。
そうかもしれません。歴史的にそうやって素材の味を奪ってしまっていたような調理法がありました。ビクトリア時代の料理では生の食品を嫌い、簡単すぎる食事の準備を軽蔑し、フランス料理に対して過度なおそれを抱いていたのです。
しかしそれと同時にイギリスは、ヨーロッパで広く使われる前から、スパイスを使って焼いたり煮込んだりするという調味法において長い伝統を持っていました。それらの伝統技術は現代の料理人、スローフードの支持者や美食家によって見直されています。
誤解その3. イギリス料理は多様性に欠ける。
そんなことはありません。2010年にイギリスは約700種類ものチーズを作りました。これはフランスより100も多く、一人当たりのチーズの量に関してもフランスを超えています。
誤解その4. 結局フランス料理には及ばない。
これも間違っています。これも2010年の英仏の雑誌で行われたアンケート調査の結果では、イギリス人がキッチンでかけた時間はフランス人より長かったのです。イギリス人の半数が30分以上かけて夕飯の準備をするのに対し、フランス人はそれが27パーセントに留まりました。
あんまりすごくないって?これならどうでしょう。西イングランドの人は西フランスの人より多くのニンニクを食べるんです。
…あまり説得力はなかったようですね。
しかしどうしてイギリス料理は世界的に喜ばしくない評価を受けてきたのでしょうか?この背景について、諸説あるようなので、主要とみられるものを紹介します。
1.イギリス貴族の食習慣
かつてのイギリス貴族は、日曜日に牛を一頭殺してローストビーフやステーキを食べるという習慣がありましたが、平日は残った冷たい肉や温めなおしたものをそのまま食べたり、スープなどの具として再び調理して食べたりしていました。残り物の肉を食べる場合も、食べる人が好みで味付けするのが当然という食習慣が成立してしまったのです。
2.上流階級での伝統料理の断絶
美食文化は、「質素倹約」を重んじるプロテスタントの信仰や、16世紀からイギリス社会に広まった「ジェントルマン」精神に反するため、社会的に影響力の高い上流階級にも根付かなかったと言われています。
またその後の時代で、中流階級の若者が料理を教わるより若いうちから住み込みの家事労働についてしまい、上・中流階級での伝統料理が断絶してしまいました。
3.労働者階級での伝統料理の断絶
産業革命以降、労働者階級の人々は劣悪な居住環境・長すぎる労働時間のため料理に手間をかける時間がありませんでした。また同時期に衛生学の啓蒙により食材を極端に加熱する調理法が普及し、腹さえ満たされれば味などどうでも良いという習慣が根付いてしまいました。都市化に伴い手に入る食料も限られ、労働者階級の伝統料理も断絶してしまったと言われています。
忙しすぎて自炊の暇もないという日本人も危ないということでしょうか…。
最後に、食べ物と直接関係がないのですが「イギリス料理」という単語について少し気が付いたことを書きたいと思います。
イギリス人の中には、「ブリティッシュ」と括られることを好まない人たちがいます。「自分はスコットランド人でもなくイギリス人でもなく、イングランド人だ」とはっきり主張するクラスメイトもいましたし、アンケートで国籍を聞いたところ"English (not British)"とわざわざ明記した人もいました。
イギリス料理のウィキペディアのページを見ると、英語版では大英帝国の食事の紹介のほかに、「イングランド料理」「北アイルランド料理」「スコットランド料理」「ウェールズ料理」の項目があります。郷土料理の少ないイギリスと言われますが、これらの地域や地域出身の人々のアイデンティティも尊重したいなと思いました。