先月、東京都内で大学生が30年後の社会を考えた政策を発表する”未来国会2016”が開催された。「30年後を大学生が考える意味」、そして「考える」とはどういうことか。
運営代表に話を伺った。
山形県米沢女子短期大学を卒業後、高崎経済大学に3年次編入。短期大学生の時に”未来国会の運営団体・NPO法人ドットジェイピーが開催する議員インターンシップに参加と同時に、姉妹コンテストである”未来自治体全国大会2015”への参加をきっかけに未来国会の運営に携わる。
——未来自治体に参加されたときはどんな提案をされたんですか。
須藤:起業することに対してプラスのイメージを持つ学生が特に地方では少ないと思っていたので、ぜひ若者に起業してもらおうというプランを策定しました。結果的には全国大会の決勝に進んで、400票中の2票差で2位でした。
——大会を通して思い出に残っていることはありますか。
須藤:議員さんの指導を受けながら政策を立てるんですけど、深夜2時に担当の議員さんが当時経営していたコンビニにチームで行って、4時ぐらいまで話を聞いてもらったことですね。(笑)すごく親身になって一緒に考えてもらったので、遠い存在だと思っていた政治家の方って意外と自分たちに近いんだと感じられました。
───割り振られたチームで、初対面の人と政治の話をするわけですよね。難しくなかったですか?
須藤:知らない人のほうが自分の意見を言いやすい面もあると思います。難しいこともあるんですけど、お互いに何も知らないところから始まってるので、結構楽しいです。チームには自分とは正反対な考えをする子がいて、私は仕事を変えることは悪いことではないと思ってるんですけど、その子は終身雇用の企業でずっと働きたいという意見で。終身雇用はどこかの企業にずっと所属するということなので起業する街とは相容れない。政策を考えるうえで価値観の違いがよく見えてきました。最終的には、やりたいことをやれるとか、色んな人と知り合うことでまちが活性化するよねということで合意に至ったんですが、方針が決まるまでに10日くらいかかりましたね。
その当時、政治に対して何かしらの不満や疑問は持っていて、同世代の人はどう感じているのかをどこかで気にしてはいたんです。でも、やっぱり学校の友だちと政治の話をすることにはすごく壁があったので、そういう話をできる友人を持てたことは参加してよかったと思っていることのひとつです。
——では、須藤さんのその経験を今年の未来国会にどんなふうに活かしましたか。
須藤:答えのない問題を一生懸命考えるということが経験として得られるので、最低限の情報は与えるけど、あとは自分たちで模索しながら考えてほしいと思っています。例えば、参考にしてくださいというスタンスで政策を考えるためのテキストブックを毎年作っていて、役に立つツールは渡すけど、まずは自分たちで考えてみてくださいという形でやっています。
───そのテキストブックに須藤さんが手を加えられた点はありますか?
須藤:30年後の未来を想像すると言っていても、2、3年後にできてしまうような政策がたくさん出てしまうという課題が毎年あるんです。なので、どうやったら参加者が30年後を描いて、10年後の政策と予算案を作れるのかをとても考えて、なぜ30年後に設定しているのかという私たちの狙いをより明確に参加者に伝えようとしています。
30年前って私達の親が自分たちの世代で、ということは、30年後は自分たちの子どもが今の自分たちの世代になるんですよね。自分たちが親になったときに、子どもにどういった世界に住んでもらいたいかを根本にして考えてもらっています。
——色んな分野の政策で競うことは投票する人の興味に評価が左右されてしまうという可能性もあると思うのですが、政策作成のテーマを複数用意されているのはなぜなんでしょうか。
須藤:そうですね、政策の興味度による評価への影響は自分でも経験しています。私は教育に興味があるんですけど、私がこのコンテストを見に行ったときにも教育の他に観光の政策もありました。教育はもちろんすごく興味を持って聞いたんですけど、一方観光も、こういうものをすれば日本ってよくなりそうだなって面白く思って、観光に対して興味を持つようになりました。いろんな分野の政策が出て来たからこそ観に来てくれる人が興味以外の分野も新たに知れるという点でメリットもあると思っています。
実際の採点には評価基準シートを作成していて、実現可能生などの20項目を挙げて、政策を見る基準をお渡ししています。
——今年のテーマは「違和感を起点に」ですよね。このテーマに至った経緯を教えていただけますか。
須藤:「政治」というと難しくなりますが、身近なところで気になることは必ずあると思うんです。私は出身が東北なんですけど、姪っ子を連れて電車に乗った時に泣いてしまって。そのときに地元だったらおばあちゃんが「大丈夫かい?」って優しい顔で声をかける一方で、東京だと舌打ちする人がいたりして冷たいと思うことが多いんです。地域間でのギャップっていうものが違和感として私の中にありました。
そういったものを見過ごしすぎてしまうとそれが当たり前になってしまうと思っていて。電車の中で赤ちゃんが泣いているのが当たり前で、東京の人たちはそれを無視するのが当たり前になってしまっているのかな。そうなってしまわないように、自分が今抱いている違和感に一旦立ち止まって、そこを考えてほしい。マイナスだった身近にある違和感をプラスに置き換えて、解決して、その上で明るい未来を描いてほしいと思ってこのテーマにしました。
——違和感を見過ごすとそれが当たり前になる。改めて言われるとなるほどと思います。小さいときから身近なことが気になっていましたか?
須藤:そこまでではなかったですね。自分が議員インターンシップを経験したときに、議員さんが身近な問題に熱心に取り組んでいる姿を見てから、一人の力で大きい国の政治は変えられないかも知れないけど、小さいことなら変えられるかもしれないと感じました。小さなところが変われば大きい意味で日本が変わると思っていて、その小さな部分を見過ごさないようにしようと思っています。
───おそらく学生が応募する時には大きい一歩を踏み出さなければいけないと思うんですね。やりたいって思ったけど、実際に応募することとのギャップをどんなふうに埋めたらいいでしょうか。
須藤:私の場合は、その機会を逃してしまったら次いつ出会えるんだろうって考えました。未来国会の政策コンテストは毎年全国で150人の学生が参加してくれるんですけど、どうしようかなって迷ってる学生がいる一方で、参加してくれる150人は「決めた」学生なわけです。同じように迷ってて、でも踏み出した学生は成長できる機会を得ている、ここで踏み出さなかったらその学生との差はどんどんできてしまうって自分が悔しくなる。そう考えて参加しようと思いました。
——今年参加してくれた学生に感じてほしいことや、こんなふうに考えてくれたらいいなというメッセージをお願いします。
須藤:自分1人の投票権もそうだし、この1票で何が変わるか、そんなに大きなことは変わらないと思うかもしれないですけど、小さな一票でも国は動くし、一人一人が国を変えられる可能性はたくさん持っていると思います。そういう力や経験をぜひ活かしてほしいす。国を変えることは地域が変わることであって、地域が変わることは人が変わることなので、まずは自分から変わってほしいと思います。