多様な経歴・肩書き・趣味を持つ堀義人氏は、どのような学生時代を過ごしたのか。
世界に認められた経済人が考える大学生活の過ごし方、そして人生の送り方とは。
───堀さんは大学時代はどのような学生でしたか?
堀:大学時代は遊んでいることが多かったですね(笑)。もともと学者を志して大学に入ったのに、授業を面白く感じられなくて…。なので、街に出かけたり、アルバイトをしたりと、大学の外の社会での活動が多かったです。中学・高校の間は目標を立てて頑張っていたけれど、大学時代には目標が定まらなかったから何をしていいのかわからなかった。
───私は大学生なのですが、学校の中の生活と外の社会が隔離されている感覚があるんです。学生はアカデミックな学びに集中したほうがいいのか、それとも現実の社会を知ったほうがいいのか、堀さんはどのように考えますか?
堀:それは大学の授業を面白く感じられるかどうか、そして自分の能力が上がるかどうかによって変わると思いますね。僕の場合は大学の授業を面白く感じられなくて、能力が上がると思えなかった。
欧米に比べて、日本の教育は高校までの学びがすごく充実しているから、必要な知識のほとんどは高校までに学んでいると思います。それ以上の知識を身につけるには本を読むなど、独学でいいと思う。
だから、大学時代は改めて何かを学ぶというよりも、社会に出るまでの準備期間だと捉えたほうがいい。大学生活の4年間は、社会を広く見て、自分がやりたいものを探して、「自分自身がどういう人間であるか」を知るための期間だと思っています。
そのためには大学の外に出て多くの人と触れ合って、視野を広げることが必要です。大学のサークルにいるのは同じような人ばかりでしょう、外に出て大学の中にいればまず知り合わないような人たちと出会って、自分の殻を打ち破っていくのが大切だと思いますね。
───堀さんは、大学時代に高校で結果を出した水泳から水球に競技を変更したり、志望していた商社に就職した後に起業したり、人生の中で何度か方向転換をしていますよね。その方向転換の理由とタイミングについて教えてください。
堀:方向転換をするタイミングは、自分の能力を9割方発揮できて、かなりピークに近いところまで達したと感じた時ですね。僕は得意なものをさらに強化するよりも、全く違うことを学んで自分が得意なものを増やすほうが得策だと考えています。初心者の間は取り組んだ時間数に伴って能力も向上していくけど、9割の状態から完璧に近づけるには、膨大な時間がかかる割にリターンはあまり大きくない。この膨大な時間を全く新しいことに費やしたほうが自分の総合的な幅が広がっていくというのが僕の考えです。
───9割の状態に達したかどうかはどのように見極めるのでしょうか?
堀:9割というのは相当に高い目標だけど、自分がやりきったと思えるかどうかが大切です。人間は、高い目標を設定してそこに到達したら、また違う世界を見たくなる。それに一度成功すると、「目標を設定して、その目標に到達するまでの道筋」がわかるようになるから、成功体験は違う分野にも応用できるようになります。ひとつでも成功体験がある人は、次から次へと違うチャレンジもできるようになっていきますね。
───多方面で活躍する堀さんが、日本版ダボス会議と呼ばれる「G1サミット」のカンファレンスのひとつとして、学生向けに「G1カレッジ」を開催しているのはなぜですか?
堀:僕はダボス会議に参加して、ものすごく衝撃を受けたんです。世界を動かしているリーダーと触れ合う中で自分の視野が広がって、世界を意識する機会があった。同じような機会を学生にも提供したいと思って、G1カレッジを去年からスタートさせました。刺激を受けることで、殻を破って大学の幅を越えていく発想を持ってもらいたいと思い、開催しています。
───参加する学生は、「外の世界を見たい」「すごいリーダーの方にお会いしたい」というように高い意識を既に持っていると思うのですが、そのエネルギーが意識の高い人たちの間だけで終わってしまうのがもったいなく感じます。
堀:エネルギーというのは、意識が高いひとりだけが持つものではなく、触れ合うことによって増幅して伝播していきます。G1カレッジに参加した人たちが核となり、多くの人たちに伝播していくことで、そのネットワークを通じてG1カレッジに参加していない人たちの意識も変わっていくのではないかと思っています。
───堀さんはグロービスで「起業家の冒言」というコラムを連載していますよね。なぜタイトルに「冒言」という言葉を使っているんですか?
堀:世の中では何を発言しても「暴言だ!」と批判されることも多いです。それならば最初から「暴言」と宣言してしまったほうがいい。ただ、暴言は暴力の「暴」だからあまり好きではなくて、冒険の冒と言で「冒言」。アドベンチャーな言葉という意味を持たせました。
自分がありのままに発言することが社会に受けいれられていくために、ポジショニングすることは重要だと思います。僕は起業家であったり、遊び人であったり、ありのままにいるほうが楽だから、それを受け入れてもらえるような環境を作っています。
───たくさんの批判に対処するために考えた方法ということですか。
堀:批判を気にするというよりも、自分らしくいられるためにはどうするかを考えて、「冒言」に至りました。ありのままでいてこそ人は面白いと思う。自分らしくいることを、社会が面白がってくれるのが一番ですよね。
───コラム内でお子さんとの2人旅について書かれているなど、ご家族を大切にしている印象を受けます。ものすごくお忙しい中で、どのようにご家族との時間をとっていますか?
堀:自分の時間と家族との時間はすごく優先順位が高くて、週4日は必ず家で食事をすると決めています。出張などで抜けた分は別の週に時間を取ってリカバリーしていますね。
これを続けることはものすごく大変ですが、それでもやっているのは人生のプライオリティにおいて1番重要なのは個人だと思うからです。2番目が家族で、3番目が組織。組織も仕事も人生のひとつの要素でしかないと思うし、個の確立がないと家族も満足できない。
でも、このプライオリティは人生を通して調整するもので、勝負する時は勝負しないといけない。仕事の時間がすごく長くなる時期が人生の中であってもいいと思う。例えばグロービスを立ち上げた時は、グロービスのことばかり考えていましたからね。
今何が一番重要なのかを認識しながら、ライフイベントに合わせてそのプライオリティを変えていけたら良いと思いますね。