官民協働海外留学支援制度「トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム」に参加した学生に、このプログラムの魅力を語ってもらいました! 今回お話してもらったのは、インドでファッションショーを開催した伊達さん、ミャンマーの医療機関で活動した山口さん、文部科学省「トビタテ!留学JAPAN」担当者の船橋さんです。プログラムを経験したからこその成長、そして現在の日本の教育に思うこととは……?
———最初に船橋さんからトビタテの経緯を簡単にお願いします。
船橋さん: 「トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム」は、民間の寄附で成り立っているプログラムです。「産業界がどういう人材を求めているか」をヒアリングして生まれました。一番特徴的なのは、半分を理系の学生にしたことです。理由としては理系の留学が少ないことと、理系人材を産業界が求めていたことがあります。「世界トップレベル大学等コース」と「新興国コース」はそれぞれの名前の通りですね。それから、「多様性人材コース」は、留学の文化を広めるために、ありとあらゆるジャンルに発信力のある人を育成しましょうと。「地域人材コース」はその地域を担う企業からの要望ですね。それから、大学から行ってるのでは遅いという話が出てきたので「高校生コース」も始めました。
———まず、お二人はなぜトビタテに応募しようと思いましたか?
伊達さん:私は元々カウンセラーになりたくて、心理学専攻で特になにも考えずに大学院まで進学したんですが、このままカウンセラーになっていいのだろうかという疑問がありました。それで、トビタテを選択肢として考え出しました。トビタテって、色々「これからやりたいこと」が評価されるんです。普通の学生でも、これをやりたいというのがあれば行かせてもらえるのかもしれない、そう思えたのが大きいですね。教育機関でなくても受け入れ機関として認めてもらえたり、休学しててもOKだったり、学生がやりたいことを応援してくれました。
───インドを選ばれたのは何故ですか?
伊達さん:インドでファッションショーを行うことを目標に学生団体で活動していたので、その活動の一環としてショーの開催に尽力したいという思いからインドを選びました。
───山口さんはいかがですか?
山口さん: ただ、やりたかったんです、純粋に。幼稚園の頃からやっていたレスリングで挫折して熱中することが何もないときに、ミャンマーで活動しているジャパンハートという団体をテレビで見て、直感で「自分はこういうところで働くんだ」と思いました。テレビで見た途上国の人たちを自分の力で何かしてあげたいという気持ちと、レスリングでまだ何も成し遂げていなかったから、すごいこと成し遂げたい欲求がとても強いことに気づきました。どこに行くかも決めた後でトビタテを知ったので、僕の場合は無くても行ったとは思うんですけど、無かったら全然違う結果になったと思います。
———留学中にしていた活動について、どうですか。伊達さん、なぜファッションだったんですか。
伊達さん:もともとインドとファッションとボランティアが好きというのは、ずっとバラバラで持っていて、あるとき、これをうまく掛け合わせられないかと思ったんです。外国人の力で、ファッションショーに服を出す経験はおもしろいと思ったので、自分がおもしろいと思う活動を組み込めたら、彼女たちにも楽しい時間を作れるんじゃないかなと思いました。団体の活動が、ショーを実際に開催するところで壁に直面していたので、休学して、5ヵ月間はショーの開催のために現地に行きました。
———山口さんはどのような活動を?
山口さん:現地では日本の病院で働いていました。その病院では、日本からのボランティアの方々の手続きや案内をしてました。あとは、入院中の患者さんが入院費を稼ぐために、ミャンマーにたくさんある天然石でアクセサリーを作ってもらったり、子どもたちがベットの上でITの勉強をできる環境を他の団体と強力して作ったりもしました。
現在取り組んでいるのは、保健教育を普及させる取り組みです。保健の知識が定着してなくて、HIVも風邪と同じような認識なんです。DVDを作って、入院中とか外来で来た患者さんに病院で学んでもらって、元気になったらその人に先生になってもらうんです。そうやって知識を普及させて、当たり前に衛生に気をつける伝統を作るところまでやりたいと思っています。
———最大の困難は何でしたか。
伊達さん:私は提携してるNGOから、「本当にやりたいんだったら、もっときちんとやれよ」と言われた時に、英語が得意なわけじゃなかったので、コミュニケーションがうまくいかないのは辛かったですね。彼らがどう思ってるかがわからないときは1週間ぐらいずっと泣いてるときもありました。でも別のインドの人の方にも支えてもらって、耐えることができました。
山口さん:3ヵ月半くらい経ったときに、自分がやってることに本当に意味があるのかとすごく悩んだ時期がありました。体調も崩してしまって本当に立てなくて、その月の写真振り返ったら3枚しか写ってなかったです(笑)。 ミャンマーが嫌だから帰りたいとかではなくて、純粋に自分がやってることに本当に意味があるのかなと、やってる価値があるのかなというのは現地にいる間悩んでました。
———外へ出てみて、日本の大学のどんな良い点、悪い点がわかりましたか。
伊達さん:留学の在り方をもう少し変えていく幅はあるんじゃないか、社会人と接する機会がもっとあればと思っています。トビタテのように、教育機関ではなくて自分で探したNGOに行ける留学がもっとあってもいい。学部時代を振り返ると、私も明確な目標があった訳ではなく、インドには何度も行っていましたが、その中で何がしたいか見えていませんでした。大学で、例えばインドに進出してる日系企業の人に話を聞くことが出来ていたら、考え方も変わっていたんじゃないかなと思います。
山口さん: 僕は日本の大学が、もっと好きなことが出来る環境になればいいなと思います。例えば今回、MAKERS UNIVERSITYというETIC.のプログラムがテスト期間とかぶってたんです、1週間全部。テストが15個受けれない(笑)。どうしようと思って、単位を認めてもらうために全部の教授にプレゼンしてまわりました。今は、「前例が……」とか色々言われるんですけど、こういう目標があってこういうプログラムに参加するのなら行ってこい、単位あげるよってことが、10年後、20年後に当たり前になってくれたらいいですね。
———日本の大学で学んだことは活きましたか。
伊達さん: 私は専攻が心理学で、学部を卒業してから行ったので、インドの子どもたちと接するときに、学んできた専門知識を少し活かせることはありました。だから学部4年間で学んだことは全然無駄ではなかったなと思っています。
山口さん: 僕はミャンマーに行ったのが学部1年生終わってすぐだったから、大学の授業は教養のところしかやってなかったんです。でも1回外に出たら、勉強しようかなという気持ちは高まりますね。「なんでやるんだろう」とは思ってたんですけど、ミャンマーに行って、勉強したほうがより多くの人を助けられると思えたので、帰ってからの勉強の意欲は少し高まったかもしれない。
———船橋さんは日本の大学にどのようなことをお考えですか?
船橋さん:教育制度に関しては、自ら考える力が必要になることを考えたときに、詰め込み型の入試ではなくて、自分の考えを表現していくものにしなければいけないですね。あとは、入るのが難しくて出るのが簡単っていうよりは、入るのが簡単で何を勉強したかという出口のハードルが高い学校にしていかないと、4年間で外国人と比較すると随分差がつくんです。非常に多感な時期にもったいないです。目標が無いまま卒業に向かって行きがちなのが非常におかしいと思います。
もちろん日本にもちゃんと勉強できる大学はあります。ただ海外に行けば、それ以外に学べることが多々あるし、詰め込みじゃない勉強ができて楽しいというメリットもあるので、留学は絶対行ったほうがいいのですけど。
———「トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム」では、実践活動が必須なのはなぜですか。
船橋さん: 1〜2ヶ月でも良いのですが、実践的な場で社会と多く接しながら活動するほうが学ぶことが多いんですよね。留学中に実践活動を通してすごく成長した人が帰ってきたら、日本の大学でもそういうことを取り入れるべきという議論が出てくると思うのです。実践活動が極端にないことが、日本の教育で遅れてることだと思うので、留学中の実践活動を好事例として日本の大学の教育を変えていきたいですね。
———プログラム自体の認知度も高まって応募者が増えてきてるのかなと思うんですけど、選考ではどのような点を見てらっしゃいますか。
船橋さん:大きく4つあります。1つ目が、パッション。2つ目が独自性。個性はみんなあるんだけど、もっととんがった、オタクと言ってもいいぐらいのもの。3つ目が好奇心。時代が変化しても、好奇心を持っていれば生きていけるという面がひとつと、お互いに好奇心を持てば、勝手に仲良くなって、刺激し合って学び合うのというのが理由です。4つ目にあえて言うと、リーダーシップを置いてますけど、真面目で優秀なだけの集団にはしたくないんです。トビタテの選考に協力頂く企業の方には、普通は面接で会わないような人もここなら会えますよというのと、最後は悩んだら好き嫌いで選んでくださいとはっきり言っています。なぜなら100人の好き嫌いはバラバラで、そのほうがバラバラな人が選ばれて面白いネットワークになるからです。
———選ばれた側としてはどうですか。自分が選ばれた理由について考えたことがありますか?
伊達さん:私はすごく受かりたかったので、結構真剣に準備をしました。書類は企業に勤められてる先輩に見てもらって、面接はそれこそ人事の方に見て頂いてビデオに撮って、ダメなところを修正して。それをやったからこそ後の固い想いにも繋がったので、自分にとっても良かったと思っています。
山口さん:僕はそもそもトビタテを知ったのが締め切りの5日前だったので、必死で書類を書いて出しました。僕の場合、ミャンマー行ってこういうことがやりたいというのが決まっていたので、それをひたすら面接官に伝えました。
———お二人や他のトビタテ生を見てて、成長したなと思う瞬間はどんな時ですか。
船橋さん:明らかに変わってくる連中と、正直そうでもない人もいる。彼は変わりました。事前研修で全然目立たないのに、事後研修ですごくキラキラしていましたね。おもしろいのは、日本が嫌いで日本から脱出したくてアメリカに行った何人かが、あまりにもアメリカ人が日本のことを知らなかったり日本の悪口言われたりして、日本のことは好きじゃないけど誇りを持ってますと話していて。そういう変わり方と、彼みたいにすごい自信を得た人が多いかな。自分にしかできないことはなんだろうとかなり深く考えるようになったとはよく聞きます。
———山口さんと伊達さんは、自分自身で考えて、どこが一番変わりましたか。
伊達さん: この歳になって「自分はこれをやりたい人間です」とはっきりと思えるようになりました。伊達文香という人間の優れているところが分かったのはすごく大きいです。他の人はインドのショーのことを私ほどには考えていないだろうっていう自信を持てました。
山口さん:前はやりたいことあっても、できると思えなかったんです。でもそれが「やればなんだって、できるんじゃない?」くらい楽観的に思えるようになりました。自分の可能性を信じてあげられるようになったことが、一番大きいかな。
あとは、人目を気にして期待に応えなければいけないと思うことがなくなりました。人からすごいと言われることをやるんじゃなくて、俺は俺で、やりたいことをやる。なので今、気持ちがすごく楽なんです。
———今後やりたいことありますか。
山口さん: まずはミャンマーで作ってもらったアクセサリーを、きちんと日本で売りたいですね。病院がある限り続く仕組みにしていきたいと思っています。
あとは、日本の鬱病や引きこもりの方が途上国にボランティアに行ける仕組みを作りたいんです。現地にいたときに自殺してしまった患者さんがいて、社会に貢献している感覚が得られていなかったことが大きいと思うんです。それって、鬱病とか引きこもりの方も同じじゃないかと思いました。自分が、ボランティアで目の前の人に全力で尽くして得られるものがあったので、そういう人たちにも生きて行く意味や自分の良さに気づいてもらえる仕組みを実現させたいと思っています。
伊達さん: 私はインドで服を作って日本で販売する会社を作りたいと思っています。インドではファッションショーの経費を基本的に寄付に頼っていて、服もボランティアさんに作って頂いていました。他の人たちの思いで達成できるのはすごく嬉しいですが、続けることを考えるとやっぱり仕事にしたいという思いが強くなりましたね。フェアトレードとかエシカルという特別なカテゴリじゃない部分で、日本の20代とか30代の女の子が買い物したときに、ちょっといいことしたんだという気持ちを生めるような服作りができたらと思っています。
———トビタテ全体としてのビジョンはどうですか。
船橋さん: 留学の機運を高めるだけじゃなくて、トビタテに行ってきた人が助け合いながら繋がって、考えたことを達成するのを互いにサポートしていく状態を目指しています。もちろん留学が当たり前の時代にはするのだけど、それよりもこのネットワークがどうなってくのだろうということに興味があります。とにかくトビタテの人は面白いっていうイメージさえあれば、世界中どこに行っても色々な人が会いたいって思ってくれるよね。そういう状態を目指したいですね。
———最後に、留学はお金や時間のマイナス面もあるけど、やっぱり留学したらこんな世界が見えるよということも含めて、メッセージをお願いします。
伊達さん:自分にどのくらい身近なのかを知って欲しいですね。「意識高い系学生でしょ」と敬遠するのではなくて、普通の学生が普通にやってることなんです。行動することは、すごい大きな一歩だと思わなくていいので。少しでも興味があったら、人に話を聞いたりとか、一歩進んでみてほしいなと思います。悩んでる時間があったら「トビタテ」で検索して、留学計画書のフォームを見てみてください。
山口さん:2年前の自分自身に、「もっとできるよ」と言ってあげたい。実現させるのは難しくても、それに向かって少しでも何かすることはできるじゃないですか。だからやってみたいんだったら純粋に自分を信じて一歩踏み込んでみるのがいいと思います。
———やりたいことが留学計画書を書くほど明確でない学生はどうすればいいでしょうか。
船橋さん:「トビタテ留学JAPAN 日本代表プログラム」がすべてだとは全然思わないでほしい。多様な生き方とか価値観とか変な常識に触れることで、自分が何をやりたくて、何をやりたくないかが見えてきます。だから、むしろ悩んでる人こそ、どんな手段でもいいからまず海外に行って、もっとワクワクした世界を見てほしい。定期的に海外に行って、友だちを100人作って情報を得る手段を持つことが大事なんです。そういう意味で最近、「20代で3回は海外に行く時代です」と言っています。1回見て世界がわかるっていうのは間違いで、世界は刻々と変わっている。自分で情報を獲得する仕組みを作るためなら、1年遅れようが2年遅れようが、企業の人は全く気にしてない。
———「本当ですか?」と言いたくなります。
船橋さん:本当に本当。その代わり、いい経験をしてきてください。採用がトビタテの目的ではないですが、1年でも2年でもいい経験をした人を企業は採用する。明確に1年や2年遅れようが、いい留学、質のいい経験をする人を望んでいます。