「自分しかヒットしない”検索ワード"をつくる」サウンドデザイナー・中西さんが語る、強みを3つ掛け合わせるキャリア論

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自由にセッションできる世界を目指し、電子楽器開発に取り組むサウンドデザイナー、中西宣人さん。自らがデザインした電子楽器が数々の賞を獲得している中西さんに聞く、強みを生かしたキャリア論とは。

中西宣人(なかにし よしひと)さん
1987年生まれ。サウンドデザイナー, 楽器デザイナー。日本大学藝術学部音楽学科情報音楽コース卒業後、東京大学大学院にて博士(学際情報学)取得。大学在籍時より、音楽セッションに着目したインタラクティブアートや電子楽器の開発を開始する。電子楽器「B.O.M.B.」, 「POWDER BOX」は、Asia Digital Art Award 2014優秀賞, 電子工作コンテスト2011優秀賞受賞。開発した電子楽器を用いて演奏活動も行っており、千代田芸術祭2014音部門 岸野雄一賞受賞、Geogia Tech’s Guthman Musical Instrument Competition 2年連続セミファイナリスト入選歴がある。学術分野でも第1回日本音響学会学生優秀発表賞を受賞するなど、現在も音と音楽を中心に多角的に活動している。

楽譜に左右されるのが嫌だった幼少期

――まず、音楽に興味を抱いたきっかけについて教えていただけますか?

中西:両親の影響があるかもしれないですね。5才くらいからピアノを習っていて、クラシックの演奏会を聴きに行っていました。同時にタンゴやフラメンコ、ジャズなど、わりと即興性がある音楽も見せてもらっていて、どちらかというと後者のほうに興味が出てきたんです。ピアノの演奏は好きだったのですが、どうも練習や譜面通りの演奏が苦手でした。 だからジャズの 即興性に惹かれていったのかなと思います。

――では、大学時代はどのような学生だったんですか?

中西:学部生時代は、やっぱりジャズやボサノバが好きで、将来は演奏で生きていきたいなと思っていました。でも3年、4年と勉強するにつれて、自分が演奏家になるのではなくて、誰でもセッションができるようなシステムを作ってみたいと考えるようになったんです。そこで、大学の授業で学んでいたプログラミングが初めて生きてきたんです。プログラミングによって、自分の思い描いた音の世界を、現実のものにできることに気が付いたわけです。

演奏だと、練習してもうまくなれるのはその一曲だけですが、プログラムは別のプログラムにも応用できますし、練習嫌いの僕にとってはプログラミングの方がやりやすかったのかもしれません。演奏も練習した分他に応用が利くはずなんですけどね……。


今までに無かったものを生み出すフレームワーク

――なるほど。大学院を卒業されてからは、ウェアラブルトランシーバー「BONX」の開発をしているチケイ株式会社さんに参加されたんですよね。

中西:今はフリーランスで活動しているので、チケイでは「BONX」PVのBGM、アプリやハードウェアのサウンドデザインを担当しました。サウンドの相談役という立ち位置です。

――サウンドのデザインをやっていく上で心得ていることはありますか?

中西:大学院を卒業してフリーランスになったばかりなので、いろいろ学ばせてもらっている段階で、偉そうなことは言えないんですけれど、大事にしてることとしては、あまり「自分を出しすぎない」ということですね。

最初に「どんな音がほしいですか?」という話をするんですけれど、その時に、「こういう感じの音ですか?」と自分の趣味の音一つを当ててしまうのではなくて、できるだけ多くのパターンを用意して、「この中でどうですか?近いものがあったら教えて下さい」という感じで聞いていくように心がけています。ヒアリングしすぎてしまっても、迷宮入りしてしまうので、バランスは難しいですが。自作品を制作する時とは、進め方は全然違いますね。

――フリーランスということで、他にも色々と仕事を担当されていると思うんですけれども、仕事を引き受ける時の基準はありますか?

中西:フリーランスの活動を始めたばかりなので難しい質問ですが……。でも、なるべく全然違うテイストのものを同時進行で受けるようにはしていますね。

例えばサウンドを作る案件を引き受けつつ、別の案件ではサウンドを作るための仕組み、つまりセンサーやハードウェアの絡んだシステムを作っていたりします。それぞれ考えることやアプローチは全然違うんですけど、自分の研究のフレームワークを常に意識できるので。

――そのフレームワークとは?

中西:例えば大体の事柄が「こういうことがやりたい。だけど今までこういうのがあって、こういうところが解決されていない。これを解決するにはどうしたらいいか。」みたいなストーリーになっていると思うんです。

――楽器をデザインする時は、フレームワークの中で生まれるんですね。突然良い発想が浮かんでデザインすることは無いのですか?

中西:もちろん、いつもこういったフレームワークだけで解決できるわけでは無いです。フレームワークにのっとって調べても、全部すでに作られていて八方ふさがりだと思うこともあるので、そういう時は一旦置いて、深呼吸していると「あっ!」っておもしろいのが浮かぶこともあります。

ただ、どちらにしても「知る」作業は必要になるので、[中西1] まずはフレームワークで考えますね。例えば「こういうものを作りたい」というアイデアが浮かんだ時にも、まずは徹底的に過去のものを調べます。「どんなものが今までに作られてきたのか」を。次に、「今こういうところが問題だから、こういうものを作ったほうがいいんじゃないか」と言うところを考えると、思いつきのアイデアでも自然に補強されていきます。

だから研究的なフレームワークと自由な発想、どちらも重要だと思います。

アーティストではなく、デザイナーでありたい

――いわゆる作曲家ではなくて、サウンドデザインという現在のお仕事に至ったのはなぜなのでしょうか?

中西:最近それを聞かれることが多くて、考えているんですけれど、やっぱり完成された楽曲として作品を出すのではなくて、作ったものによって人の変化を生み出すことが好きなのかなと思います。

例えばジャズやボサノバには即興演奏が入ってくる部分があって、テーマが決まっているんだけども、アドリブする部分がある。曲を作る時はそういったアドリブがきかなくて、かちっと決まったものを納品しなければいけないので、あまり自分のスタイルに合っていないんです。成果物を作るのではなくて、それを作るための仕組みを作りたいんですね。

アーティストだと、「自分の世界を見てください」というタイプの人が多と思うんですけれど、デザインの場合は人に合わせたり、見やすくしたりすることが仕事だと思っています。僕がサウンドデザイナーと名乗っているのは、そういう意味もあるんです。

――自分ではなく人に視点が行くんですね。それはなぜですか?

中西:セッションやジャズの演奏会に行くと、人と一緒に演奏するには相手をきちんと見なければいけないし、自分もそれに反応しなければいけない、という考え方の根本が共通してるところがあるんですよね。演奏より、演奏の時も人を見てしまう。ジャズの即興性、周りと関わって盛り上がっていく感じをみんなに味わってほしい。それが、電子楽器を作り始めた根本にあるんです。

――電子楽器を普及させたいという思いはありますか?

中西:普及させるのは結構大変ですよね。1つのものをみんなに提供していかなきゃいけなくなっちゃうので。

身近なもので言うと、スマートフォンは「全人類が使いやすい」というものではないですよね。「だいたいみんなが使いやすいレベル」だと思います。僕は自分が作るときに、「もうちょっと人それぞれにふさわしい形が楽器にもあるんじゃないのかな」って思ってしまうので、そのバランスに頭を悩ませています。

例えば、今特別支援学校の教員の方と電子楽器を一緒に作っているんですけど、そこで「先生が何を苦労しているか」とか、「生徒さんがどんなところに演奏の難しさを抱えているのか」という問題点を考えて、それに対応できる使いやすいデザインを考える方が、僕も工夫する甲斐があります。

――「演奏の楽しさを他の人にも知ってもらいたい。でもみんなに知ってもらいたいというよりは個別の事情に合わせてデザインしたい」というのは、両立が難しそうですね。

中西:やっぱり、ただ僕の側だけが「知ってほしい、分かってほしい」と思っていても、意味が無いじゃないですか。全員が相手のことを考える気持ちじゃないと、共同演奏はうまくいかないと思うんです。だから、「個がちゃんとある上での全員」を対象にしたものが作れているか、どうしたらそうなるか常に考えています。

――いわゆる普通の楽器の売上は、近年減っていますよね。そこを改善したいという思いはありますか?

中西:実は全然思っていないんです。さっきの話と繋がるんですけど、楽器はそれぞれにあっていいなって思ってて。それぞれの人に適切な楽器の形があると思うんです。全員が自分の楽器を作って演奏できる世界ができたら、「これが自分の音楽だしで、自分の楽器です」とみんなが言えるじゃないですか。ちゃんと個が立ってくる。むしろ今の楽器の形は昔からあるもので、進化していないわけですよね。だから楽器も進化していいんじゃないかなと。売れるとか売れないという話よりも、楽器の捉え方の変化の話が重要なんじゃないかと思っています。

電子楽器だと、「自分で工夫してシンセサイザー作っちゃいました」という人が結構多いんです。もちろん企業が作った楽器の方が多機能だし、いろいろなことができるんですけど、「その人にしか出せないシンセのサウンド」を作っている人も多い。そういうふうに「楽器は売られるものじゃなくて、作るものだ」というふうに変わっていくといいなと思っています。まだまだ難しいですけどね。

――他の商品と比べると楽器は、良いものを作ったとしても、高価で売ることがなかなか難しいと感じます。特にこだわってデザインすればするほど、価格も高くなってしまうかと思うのですが、その点はどう考えていらっしゃいますか?

中西:それはこれから考えていかなければいけないところでもあるので、なんとも言えないです。勉強中ですね。

それに、最初に作る段階で価格のことを考えてしまうと、どこに向かいたいのかがわからなくなってしまう。ゴールは何なのか。売ることがゴールだとちょっと寂しいじゃないですか。「こんな未来があるよ」という提示をしたいです。

生き残るため、自分だけの検索ワードを作る

――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

中西:新卒で入った会社に定年まで勤めるという形態は、今なくなってきているし、5年後にはもっと少なくなっていると思うんです。例えば、2年ずつ、「ここに勤めていました。次にここに移りました」というように、履歴書がぐちゃぐちゃになるぐらいに、どんどんキャリアが変わっていく国に日本もなっていくのではないでしょうか。

その時に大事なのが、専門の一つから派生するような軸を、もう2つぐらい持っておくことじゃないかなと思います。僕は今フリーランスだし、企業に入ったことはなくて研究しかやったことはないんですけど、僕の場合、「音楽、楽器」が1つ目の軸としてあって、2つ目は「ソフトウェア、プログラム」、3つ目は「ハードウェア」という、3つの軸があるんですね。例えばその3つのキーワードをGoogleで検索してみても、僕しか出てこないわけじゃないですか。そうすると「この人にしか頼めない」と思ってもらえるし、そういう戦い方ができるのではないでしょうか。

この記事を書いた学生ライター

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