日本とセネガルの融合。アフリカの熱を感じ小売業で勝負に挑む。

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セネガルでのフィールド調査を終え、帰国しました。京都大学大学院の池邉です。セネガルには以前もお伝えしたように、たくさんの日本人がいます。その中で、個人でビジネスをはじめる方も少なくありません。

今回は、首都ダカールで日本企業の製品を売る小売店を起業された野口哲正さんと、共同代表のセネガル人、セイディナ・モハメド・ジェンさんを紹介いたします。有限責任会社Seynoya SARLという会社を立ち上げ、「1,100フランセーファー均一ショップ(日本円で約220円均一)」を開業予定、日本で販売されているような生活雑貨を販売します。

野口さんと、セネガル人のセイディナさん、お二人がどうして小売店を起業したのか。現在のお仕事からこれまでの経歴、そしてこれからの目標についてインタビューしました。

野口哲正さん(写真右):法政大学法学部卒業後、水回り住宅設備企業に入社。マーケティング、商品企画、海外営業などを経験。在学中のルワンダにてインターンシップを経験したことがきっかけとなり、アフリカでの小売業を目指して退社。2015年よりセネガルへ。

Seydina Mohamed Dièneさん(写真左):セネガル国内で大学卒業後、ロジスティクス企業に入社。セネガルとケニアで勤務。退社後、日本への留学支援制度を利用し留学。名古屋大学大学院にて災害対策を学ぶ。帰国後、名古屋で出会った野口さんと共同でSeynoya SARLを設立。

小売店の起業について

ーー現在(2015年11月)、開業の準備中と伺いました。

野口:そうですね。どういった店舗がいいか、テナントを見てまわり、ようやく物件が決まりました。商品は日本の卸業者から船便で送ってもらっています。現在は商品カタログも作成中です。

(カタログ作りのため、一品ずつ丁寧に写真を撮るセイディナさん)

ーー海外、しかも遠く離れたアフリカでいちからお店を作るのは、かなり苦労されたんじゃないですか。

野口:店舗を探すのが一番苦労しました。物件探しはセネガル人との交渉で、フランス語でのやりとりです。時にはセイディナさんが現地語のウォロフ語で話すことでうまくいくこともありますが、ダカールはよい店舗物件が大変少なく「売り手市場」で早い者勝ち。そのうえ、いい取引相手が他に見つかると勝手に解消する場合もあるので困ります。実際に契約を反故にされたこともあります。開業が遅れてしまう事態にもなりました。

(セネガルの一般的な商店。生活に必要なものはだいたい揃っている)

ーー野口さんはセネガルに来てすぐ小売店をはじめようと思っていたんですか?

野口:2015年2月に、セネガルの首都ダカールに来ました。すぐに何するか決めていたわけではなく、西アフリカでどういったビジネスができるかをしばらく模索していました。国自体もセネガルに決めていたわけではなく、バックパックを背負って、ガンビア、コートジボワール、マリといった周辺国にも行きました。商売ができるかどうか、するとしたらどんな商売ができるか、コートジボワールの首都アビジャンや、マリの首都バマコを歩いてずっと考えてました。

ーーどういった視点で市場を観察するんですか?ここが気になる!というものがあるのでしょうか。

野口:たしかにいろんなもの見ますけど、僕は自分の直感を大事にしています。市場を見ていると、強い「熱気」を感じるんですよね。買い物は少しでも安く買いたい者と、少しでも高く売りたい者同士のエネルギーのぶつかり合い。そのやりとりをよく見ています。買い物の熱って言うのでしょうか。コートジボワール、マリではその「熱」をとても強く感じました。アドジャメ(中央市場)なんかは見渡す限りの店店店。圧倒されました。

(ダカールのヨフ地区の市場。小さな市場でも買い物の熱気はつよい)

野口:そういったマーケットを見るとほんとに、「消費が爆発してんな」って思います。売っているものは日用品から、服、靴、装飾品、電化製品まで。どの市場でも熱いやりとりを感じ、「小売で勝負したい」と感じるようになりました。

そうした中でいろいろとまわったのちにセネガルを選びました。理由は安全であること。他の国では「買い物のエネルギーがある一方、暴力的な方向にもそれに向けられるエネルギーが強い」ということも感じたのです。

 またセネガルを決意しましたのには名古屋大学院卒のセネガル人パートナー、セイディナさんとの協力関係も大きく影響しています。彼と組むことで単なる純日本人の企業ではなく、セネガルと日本を繋ぐ会社を作れると感じたのです。セネガルと日本、「どちらが上」ということはありません。同じように我々のパートナーシップも対等、そのため「共同代表」という形をとっています。日本人としての視点とセネガル人の視点を合わせることで、売り手と買い手双方の考え方を取り入れた商売をできると考えています。

ーーセイディナさんはどうして小売をしようと思ったんですか?

セイディナ:私は日本政府の奨学制度を利用して名古屋大学の大学院に留学しているときに野口さんと出会いました。大学院では、国際開発について、とくに災害対策について勉強しました。セネガルでは干ばつと洪水の被害が続いているので、そのことについて深く研究しました。名古屋はいいところでしたね。とても静かで。

野口さんと小売をはじめようと思った理由として一番大きいものは、「いいモノ」を自分の国に広めたいということです。海外に出るアフリカ人の多くは、異国のよいモノ、技術を自分の国に持って帰りたいと考えています。でも私の国セネガルでは「“Quality” is always expensive」、いいものはどれも高いんです。粗悪品は安く作られ、すぐに壊れます。一方、日本の商品は手ごろな値段の商品でも必ず一定の品質があります。セネガルで良いクオリティをリーズナブルな価格で売ることを目指したいと思い、始めました。

二人の過去について

ーー野口さんがアフリカでビジネスを始めようと決めたのはいつですか?

野口:学生時代に「いつかアフリカに戻ってビジネスがしたい」と決めていました。もともと法政大学法学部政治学科に通っているときに、1年休学してルワンダでインターンシップをしたのがアフリカとの出会いです。ケニアナッツカンパニーという企業を作られた佐藤芳之氏が現地で起業した”Organic solutions Rwanda”という会社で9ヶ月間、主に営業をお手伝いしました。首都キガリのホテルをまわり、微生物で匂いを抑える消臭剤を売りました。ボットン便所が多いので、トイレが本当に臭いんです。当時は公用語の英語もできなかったので大変でした。今考えれば無謀ですね。一人でゲストハウスから大きなホテルまでまわっていました。ホテルに行って、オーナー呼んでもらって、試供品わたしてと拙い英語でなんとかやっていました。

インターンをしている中でマーケットとしてのアフリカの可能性と、ビジネスを通じて開発に貢献する喜びに目覚め、ルワンダから帰るときに、「またアフリカに戻ってこよう」と決意しました。

ーーセイディナさんは名古屋大学に通う前は何をされていたんですか?

セイディナ:大学を卒業してからは、ロジスティクス企業に就職し、その後ケニアに赴任しました。初めての海外生活であったケニアでは働きながら英語と心理学を勉強し、その後セネガルに戻り修士号をとりました。この時勉強していた英語は日本に行くのにとても役に立ちました。留学生選抜試験の内容の多くが英語だったんですね。そのおかげで大変な高倍率だった試験でフランス語しかできない他の学生の優位に立つことができ合格できました。

ケニアで実感したのは文化の違いでした。同じアフリカといっても、イギリスの植民地が多い東アフリカと、フランスの植民地が多い西アフリカとでは教育の影響か、考え方もまったく違いましたね。この経験が「異文化に触れることで自分は多くの事を学べる」ということを教えてくれたんです。だからこそ、その後もっと文化の違う日本に行ってみたいと思うようになりました。

ーー野口さんは大学卒業後、水回り住宅設備の大手メーカーに入社されていますよね。そこではどんなお仕事をされていたんですか?

野口:4年弱ほど働いて、マーケティングと商品企画を2年、海外営業を2年弱経験しました。海外営業での担当は中国で、英語で特許のライセンス営業をしていました。ルワンダでは英語が全然だったんですけど、その頃には英文の契約書を作れるほどになりました。

退社は2015年1月でした。退社までの間にアフリカ行きの計画は立てていて、フランス語の勉強もずっとしていました。西アフリカに決めたのは日本にとってまだまだ遠い地域だったという部分が大きいですね。ルワンダから帰ってきた当時はまだまだアフリカの知名度はいまいちだったのに、いまは日本人でも東アフリカでビジネスをしているひとがかなり増えています。また同地には以前からインド人と中国人がかなり進出していました。特にインドは昔から交易が盛んだったこと、お互いイギリスの植民地で英語圏であることなどが要因でしょう。それに比べると、西アフリカはフランス語圏だし日本からの距離もありプレイヤーはまだまだ少ないのではないか、その中ではセネガルがいいかと思っていました。

野口:しかし「小売をやりたい」と思ってきたものの、しばらく見てるうちにこりゃダメだ、大変なところに来てしまったとおもってしまいました。ルワンダにいたときはまだなんでもできそうな土壌が広がっていたこともあり、アフリカをビジネスの「未開拓地」だとおもっていたんですね。

でもセネガルは西アフリカの玄関と言われるだけあって、かなり発展していました。フランス人だけでなく、レバノン人や中国人がかなり進出していて、勝てないんじゃ・・・と思ってしまいました。

しかし、パートナー、セイディナさんが背中を押してくれたこと。そして自分がやりたいこと、できることを考えたときに、やっぱり小売だとおもったんです。

大きなメーカーにいたときは買い手から遠い存在だったことがもどかしかったんです。小売りを通して消費者であるセネガル人の一番近いところにいたかった。それが大きな理由となり、原動力となりました。

セイディナ:小売をはじめることについて、私は常々“地に足のついたビジネス”をしなくてはいけないと思っています。私の愛する「吉野家」だってはじめは一つの牛丼屋から地道にやってきました。ジョブスだってひとつのガレージからはじめたわけだし、そうやってbe on the groundに進めていくことはどんなビジネスでも必須です。

私たちの時代、人々はできあがったビジネスという「結果」だけを目にしていて、それができあがっていく地道な「プロセス」を垣間見ることはありません。結果的に日本でもセネガルでもビジネスが簡単にできるように人々は思いがちなのではないかと。でも実際にはそうではなく、大変で面倒なことがたくさんあるんですね。私たちは自分たちのビジネスが決して楽なものではないと認識しています。だからこそ、多少時間がかかってもひたむきにチャレンジしていけると思います。地道にコツコツと、まずはやってみることです。

(Seynoyaの店舗と野口さん。工事がほぼ終わり、開店準備にとりかかる)

お二人のこれから

ーー二人がこれからの小売店営業で目指したいことはなんですか?

野口:事業を包括する方向性として「セネガルと日本の間に立って作り手と買い手をつなぐ」ということを一番のコンセプトにおいています。具体的な内容は以下の3つです。

① 小売店を拡大し、日本の商品をもっと多くの方に広める
② アフリカで得たマーケット情報を、作り手の日本に発信する
③ ゼリーなどの加工品販売を通して、農村と都市をつなげる

ひとつは、日本の商品を買い手であるセネガルの方にもっと知ってもらう。日本の生活雑貨メーカーという「作り手」とアフリカの「買い手」をつなぎたい、というものです。売り場を設けることで、日本の商品をPRしてアフリカに広めることができます。ほかにも販売の方法を工夫して、や路上売り(バナバナ)のお兄ちゃんと協力したりというのも考えています。

(路上売り「バナバナ」のお兄さんたち。イヤホンや携帯・スマホケースから、腕時計からうちわまで、なんでも売っている)

二つ目は、アフリカの買い手で得たマーケット情報を、日本の作り手に対して発信していきたい。買い手側のアフリカでどういったニーズ、傾向があるのかをデータとして作り手の企業に提供・発信していくことを考えています。

三つ目は、現在漁港でとれる海藻をつかった寒天ゼリーを試作中です。JICAの青年海外協力隊の一村一品活動とも連携して、セネガル人に親しみのないゼリー販売(※2)をしていきたいですね。農村でとどまっている商品をセネガルに広く売り出すためにも、首都を拠点にいろんな土地のものを集めたいです。こうした地産地消の食品を通して、作り手であるアフリカの農村と買い手の都市をつなげたい。

こうした様々な活動を通じて作り手と売り手のパイプをもっと広く太くしていきたいです。

セイディナ:こうした小売業は地域に浸透させることがカギです。私たちのコンセプトは、「比較的安価でいいものが手に入る」ということです。これは日本にはあっても、今までのセネガルにはなかったこと。こうした新しいビジネスが人々に浸透すれば、首都ダカールから内陸の都市にも少しずつ広げていくことができるでしょう。

<Seynoya SARL・インターン募集>

野口さん,セイディナさんの会社・Seynoya SARLは2016年4月までの間、プロモーションや販促活動などをお手伝いしてくれる学生を募集しています。期間は無制限で、2、3日でも構いません。語学(とくにフランス語)ができれば望ましいですが、必須ではありません。滞在費用は負担していただきますが、アフリカでのビジネスに興味がある方、私たちとこれまでにない新たなビジネスをつくっていきましょう。詳しくはこちらをご覧ください。
連絡先:[email protected]

この記事を書いた学生ライター

Tomoki Ikebe
Tomoki Ikebe
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京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻の、池邉智基です。アフリカはセネガルで文化人類学の調査をしています。 Facebook: https://www.facebook.com/IkebeTomoki

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