渋谷をITベンチャーの集積地にする「ビットバレー構想」から15年が経った。いま再び、渋谷に多くのスタートアップ企業やコワーキングスペースが集まりつつある。例を挙げるならば、リクルートホールディングスが手掛ける「Tech Lab Paak」、インテリジェンスが運営する「dots.」、そしてSkyland VenturesとEast Venturesが共同運営する「#Hiveshibuya」などが相次いで渋谷にオープンしている。今回取り上げるイベントは「#Hiveshibuya」のスポンサーをつとめるIBMが主催する学生向けイベント「IBM BlueHub Campus」。学生の間でも盛り上がりつつあるスタートアップシーンの様子を、本稿ではお送りする。(画像提供:Skyland Ventures)
最初の挨拶をつとめたのはSkyland Ventures代表の木下氏。木下氏は、スタートアップとは「自分の好きな仕事で生きていくこと」ことであり、「#Hiveshibuya」をオープンした理由は、未来を創る会社を生み出し、カンパニー(仲間)を作るためと語った。最後に「ベンチャーキャピタルは、天才を探す仕事」と述べた木下氏。木下氏はどう天才を定義したのだろうか。
木下氏:天才とは、50年、毎日あるひとつのことに没頭できる人だと思っています。もしその没頭の対象が会社であれば、僕は一緒になって作りたい。また、人が物事を辞めてしまう理由はお金か、年齢の2つしかないと思っています。ベンチャーキャピタリストは年齢を若返らせることはできないが、お金のサポートをしていけたらと。
続いて登壇したのは、IBM BlueHubが主催するインキュベーションプログラム第一期で採択されたBrandPit代表の山浦真由子氏。BrandPitは画像認識技術を用いて、ブランド調査を行うスタートアップ。ソーシャルメディアに投稿されたテキストやキーワードのみを分析するのではなく、シェアされる画像や写真の中に潜むインサイトをすくい上げることができるのが特長だ。
山浦:情報量の多い画像を解析することにより、実際の消費者はどういった層なのかを導き出すことができます。例えば、年齢層や男女比などです。広告会社やブランド保有会社に、「どういうふうに一般生活者とブランドが関わっているのか」に関する情報を提供するサービスを行っています。
山浦氏は、高校卒業後に横浜国立大学に進学。大学卒業後は、オレゴン州のポートランド州立大学に留学し、現地のIT会社で働いた経験を持つ。日本に帰国後リサーチ会社に勤め、BrandPitを起業するに至った。なぜ、山浦氏は起業したのだろうか。その理由についてこう語った。
山浦:今までの人生の中で「出会いと小さな勇気」が大きく影響してきたのかなと思ってます。留学に興味を持ったのも、交換留学生が1ヶ月うちに来ていて、英語をしゃべりたいなというところから始まり、起業も、アメリカにいた時にスタートアップに興味がある友達にたまたまイベントに連れて行ってもらったのがきっかけでした。
山浦氏は「必ずしも起業しろとは言わないけれども、自分にとってやりがいを感じられるものを見つけてほしい」と語り、最後にムーミンに登場するキャラクター「リトルミィ」のある言葉を引用し、講演を終えた。
「自分と向き合うにはひとりになるんじゃないわ。いろんな人と関わりあうのよ。お友達とおままごとしろって言っているんじゃないの。自分の知らない、自分を知らない人たちと関わりあうのよ。見えてくるわよ、本当の自分が」
講演後は学生からの活発な質疑応答がなされ、その中でもいくつかの質問を抜粋して紹介する。「実際に起業したいと思えるアイデアが浮かんだ時、どういう気持ちだったのか」。山浦氏は「これを人生をかけてやってもいいかもと思えた」と語った。人生の3分の1以上の時間を費やすことになる仕事が面白くなければ、死ぬ時に後悔してしまう。なので、心からエネルギーを注げるものを選んだ。続いて「やりたいことは決まっているけれど、分野を絞り切れない」という学生の悩みに対して、「多くの人と話をして、意見を交換し、アイデアを整理しよう」と山浦氏は語る。日本人は文章や絵などの自身の創作物を他人に見せるのを恥ずかしがる傾向がある。形になっていなくても、人とシェアすることで新しい気づきを得ることができる。
続いて登壇したのは、IBMクラウド部門所属の宇藤氏。IBMが提供するクラウド型アプリケーション・プラットフォーム「Bluemix」のマーケティングを担当している。そして「Bluemix」はIBM BlueHubに使用されるサービスのひとつだ。そもそもBlueHubとはどういったプログラムなのだろうか。起業家がスタートアップをはじめる時に、成長支援のためのコンサルティングを行うインキュベーションプログラムだ。勉強会・イベントの開催や、ソフトウェア開発者、学生を支援するプログラムなども積極的に行っている。IBMがクラウドサービスに取り組む理由について、こう語った。
宇藤:今、ビジネスの環境が大きく変化しています。ビジネスモデルの違う企業が競合になったり、競争の境界線が変わってきています。例えば、Uberは世界一のタクシー会社ですが、タクシーを1台も保有していない。こういった企業が、既存の企業をどんどん破壊しにきている。逆に言うと、皆さんが起業していく中では、既存のビジネスをやってるところと勝負ができるという意味で、むしろチャンスかもしれない。
宇藤氏は、Uberの他にもFacebookはメディア企業であるものの、自社ではコンテンツをつくっていないことであったり、中国の最大手ECサイト「アリババ」は小売業であるものの、在庫を一切持たないCtoCのマッチングというビジネスモデルを展開していることを例に挙げ、これらを「Uber症候群」と定義した。では、こういった激しい変化の中で、何が必要なのだろうか。宇藤氏は、スモールスタートの必要性を説く。
宇藤:まずは小さくはじめましょう。そしてサービスが成長していく時に柔軟性の高いシステム、アプリケーションの基盤であるクラウドを皆様を支援させていただく。そして、クイックスタートも大切です。仮に失敗したとしても、すぐ撤退できる。昔は大きなサーバーを購入してしまうと、初期投資がかかってしまいましたが、これもクラウドならば「小さくはじめて、やめたい時にはやめられる」。このクラウドの良さを活用しながら、ビジネスを展開していただきたいと考えています。
講演終了後に開催された交流会には多くの学生が参加し、イベント登壇者と語り合う様子を見て取れた。ちなみに、ケータリングは弁当デリバリーのスタートアップ「bento.jp」が担当していた。今後も「#Hiveshibuya」では起業、スタートアップ、留学などの様々な領域に関心がある学生に対してイベントを開いていくという。2016年1月22日には東大生向けの「Skyland Ventures Campus2016 For 東大」、1月29日には京都で「Skyland Ventures Campus2016 For 京都」、そして2月18日には筑波大学で「Skyland Ventures Campus2016 For 筑波」が開催される。co-mediaでも引き続き、渋谷にうまれつつある新しいスタートアップのエコシステムを追いかけて行きたい。