「ビッグデータ」という言葉をご存知でしょうか。市販のソフトウェアでは処理できないほど巨大で、複雑なデータの集積を指すものです。情報通信技術の発達に伴って生まれ、2010年に英国エコノミスト誌が”big data”の概念を示して以来、社会的に重要視する動きが高まっています。
総務省はビッグデータを「事業に役立つ知見を導出するためのデータ」と定義し、その内容として、一般企業の販売業績からWeb上に投稿された動画や画像、SNSの個人プロフィールまで、デジタルに溢れるありとあらゆるデータを指定しています。さらに、ビッグデータを用いたビジネスの例に「社会・経済の問題解決や、業務の付加価値向上を行う、あるいは支援する事業」を挙げています。
ビッグデータを十分に活用するには、どの程度の規模かという量的な側面だけでなく、どんなデータから構成され、そのデータがどのように利用されるかという質的な側面からの分析が必要になります。
まず注目されるのは、データの出所です。現在すでに活用が進んでいる例として、オンラインショッピングサイトや音楽・動画配信サービスなどの購入・閲覧履歴をもとに、流行分析や個人のブラウザ上で直接広告を届けるなどのシステムが開発されています。今後はGPSやICカードなどで検知される位置・乗車情報をもとに、より日常生活に密着したダイレクトメール配信などが見込まれています。また、多種多様な出所から得られた各データを連携させることで、さらなる付加価値が期待されています。
ビッグデータのもうひとつの注目すべき点は、リアルタイムで更新されていくことです。特に、データの利用者(企業側)にとっては、いち早くユーザー(顧客、一般大衆)の需要を満たし、その変化を予測することができるため、サービス展開の可能性を広げることができます。また、ユーザー自身の関心がサービスに直接反映されるため、消費促進も見込まれています。
ビッグデータの活用は経済に大きな影響をもたらしますが、前述の通りその分析は一筋縄ではいきません。そこで登場したのが「データサイエンティスト」という新しい職業です。
一般社団法人データサイエンティスト協会は、データサイエンティストを「膨大なデータ(ビッグデータ)から、ビジネスに活用する知見を引き出す中核人材」と位置付けています。一般企業や官公庁におけるデータサイエンティストは、ビッグデータの分析によって事業展開の指針を提案する、いわばコンサルタント的な役割を担うことになります。そのためデータサイエンティストには、数学・統計学的な素養はもちろん、プログラミング技術やマーケティング、経営力など総合的なスキルが必要になると言われています。
しかし、ビッグデータは量の膨大さに加え無尽蔵で、種類も多岐に渡ります。また、資格や認定制度などによる明確な定義もなされていないため、企業の求める分析結果をデータサイエンティストが提供できないなど、人材受入側と提供側のミスマッチが懸念されています。そのため、個人にすべてのスキルを負担させるのではなく、エンジニアやマネージャー、マーケッターなどそれぞれの分野に精通する人材を集めた「データサイエンスチーム」の設置も有望視されています。
ビッグデータの分析は今やマーケティングに必要不可欠で、人材としてのデータサイエンティストも需要が飛躍的に高まっています。2013年には米マッキンゼーが「最もセクシーな職業」と紹介し、2010年代後半には10万人規模で不足が生じると予測しました。一方、経済活動へのビッグデータの浸透を考えると、今後はデータサイエンティストが職業として確立することはなく、現在のアナリストやコンサルタントなどに一体化していくという見方もあります。分野を問わず有力なビジネスを志すなら、今後必須のスキルになりそうです。