2週間のクリスマス休暇が終わったかと思えば、ローマ教皇の来比でまた5連休、そして来月には旧正月の休暇を控えているフィリピンから、アテネオ・デ・マニラ大学に留学中の楢府です。ーローマ教皇を歓迎するポスター
フィリピンの休暇は大体突発的です。今回の特別休暇も1月の休み明けに正確な日付を知りました。正直なところ、大学のウェブページ含め正式なアナウンスはありませんが、友達と教授が休みと言っているので休みます。ちなみに2月中にあるであろう旧正月の休暇の日程は多くの現地の学生もまだ知りません。きっと近くなったら噂でまた知ることになると思います。(この何とかなるか精神にかなり浸食されています)こんないい加減なのに、噂で周知できるフィリピン社会、与えられた休みはしっかり休むフィリピン人、すごいです。
授業のスケジュールもどんどんずれています。12月2週目の台風ルビーによる2日間の休講、今回の特別休暇、来月の旧正月。後ろ2つの休講も11月の2週目に受け取ったシラバスには反映されていません。授業のリスケを年明けにした先生が多いのですが、旧正月休みを反映していません。多分、もう一回くらいは全部のクラスでリスケしなくてはいけなくなりそうです・・・。
こちらに来て3か月目に突入しこちらのルーズさを理解はできるようになりましたが、まだ慣れないですね。前置きはこの辺にして、本題に移りたいと思います。今回でコラムブログも第3回となります。授業で、友達との会話で、ドミトリー(学外の社会人も住んでいるドミトリーで留学生は私1人です)の住人やスタッフとの会話で、様々なフィリピンの状況を見聞きし、やっと情報を整理できるようになってきたので、私が今感じているフィリピンの社会問題についてこの場でお伝えしたいと思います。
「安定した仕事がない」、これが社会全体に共通して言えることです。そのため、多くの若者(中学生~20代、但し私の大学の学生は除く)に就きたい仕事/就きたかった仕事を聞くと教師または警察官と答えます。この2つは公務員であり、比較的給料もよく、何より「安定」した仕事というイメージが強いからです。なぜこのような問題が起きるのか、今回のコラムブログでは国内労働法に焦点を当てて書いていきたいと思います。(今、フィリピン人学生に交じって留学生1人という環境で国内労働法を勉強しているのですが、この授業が色々な意味で一番辛いです。一度は「留学生には無理!」と履修取消を勧められ、「先生嫌い・・・授業行きたくない・・・」と弱音を吐きつつも毎週頑張っています。中間テスト頑張ったからきっともう履修取消は勧められないはず・・・)ー現地の新聞に掲載されている求人広告
途上国の法整備と聞くと、「ああ、法的に労働者の権利が保護されていないのか」と思われる方が多いと思いますが、この国は逆です。労働力が余っている状態で労働者の権利が保護されすぎているために、雇用者が長期的に雇用するのを躊躇するのが原因です。フィリピンの労働法は複雑で細かくて、労働者の保護を優先するような内容で、何より法律や判例の使用言語が英語(!)なのです。
少し補足させて頂くと、フィリピン人は英語が話せると思っている方も多いと思いますが、それはごく限られたエリートのみで(私の大学はみんなネイティブ並みにペラペラですが)、一般の人は一般的な日本人と同じレベルです。数字・単語は理解できるので、英語で話しかけても何を言っているかは大体分かってもらえますし簡単な会話は成立しますが、判例や法律を読めるほどの英語力を持っているのはごく一部です。また、フィリピン中で最も学生の英語の語学力が高いであろう私の大学でも、教授が「英語が苦手なフィリピン人学生も授業についていくのが難しいのが現状」と言っているほどです。
このような状況なのできちんと労働法の知識を持っている人は限られているのですが、全員が共通して認識していることが1つだけあります。
「6か月以上雇用すると、解雇するのが難しくなってしまう」
ですので、多くの場合、5カ月でunskilled workerと呼ばれる非正規労働者は解雇され、新たな職を探さなくてはならなくなります。ほとんどの場合契約更新はありません。極端な判例だと、1835人の非正規労働者を雇っている食品会社で、毎月非正規の採用を行い5か月働いた労働者を全員解雇していたというものもありました。 法律上、労働者は
①正規労働者(Regular Employee)、 ②臨時労働者(Casual Employee)、 ③期間労働者(Fixed-Period or Term Employee)、 ④プロジェクト労働者(Project Employee)、 ⑤季節労働者(Seasonal Employee)、 ⑥見習い労働者(Probationary Employee)
に分類されるのですが、期間労働者以外の非正規労働者は一定期間経てば、契約内容に関わらず正規労働者になるというのがこの国の法律です。1番短いので見習い労働者の6か月(契約によって変更することが可能)、それ以外は1年間働けば、正規労働者と法律上みなされます。契約の如何に拘わらず「自動的」にです。しかも、継続の場合だけでなく、断続的でも合計で1年になればいいという規則です。
正規労働者の場合、正当な理由(Just Cause)と会社の事情( Authorized Cause)以外では解雇できません。しかも、正当な理由に至っては「意図的」で「継続的」な場合のみ認められます。つまり、サボり癖がある労働者でも簡単には解雇できなくなってしまいます。そして、12月には法律で2か月分の給料を払わなくてはいけないと決められていたり、社会保障の費用が掛かったりと、会社の経営を圧迫する要因となってしまいます。私がこの学んでいることを通じてお伝えしたいのは、「理想的なものが必ずしも社会問題を解決するわけではない」ということです。労働法の場合、労働者の権利保護を目指したはずの、一定期間で無条件に正規労働者になれるという法律のために、5-6か月で異なる会社を転々と働かなくてはいけないという不安定な労働状況が発生しています。では、正規労働者へのハードルをあげればよかったのか。少なくとも長期的な雇用は実現できたとは思いますが、解雇されやすいという不安定さは残ったままです。一方で、この法律のおかげで慢性的に不足している雇用機会に流動性が生まれているという側面もあるともいえます。このように理想と現実のはざまで様々なジレンマ・ひずみがこの国では発生しています。
今回はスペースの関係で触れられませんでしたが、格差の問題、雇用の問題、世界的に有名なスモーキーマウンテン(ごみ山)の問題など、深く見聞きすればするほど、一筋縄ではいかない、構造的で合理的で歴史的で文化的で人間味あふれる様々な要因が入り混じっています。今は、もっと具体的にはっきりと問題と理解したい・捉えたいと必死で情報を集めて、情報量の多さに圧倒され混乱することもありますが、留学を終えて日本に戻ることまでにはしっかりと体系的に理解できるよう、今はできる限りアンテナをはり日本社会で培われた今までの固定概念を崩壊させていきたいと思います。
長文を最後まで読んでいただきありがとうございました。次回は、格差の問題について発信できればと思っています。今後ともよろしくお願いします♪
2014年10月からフィリピンに滞在中。11月から3月までのアテネオ・デ・マニラ大学の交換留学を終え、現在はオロンガポ(マニラから北に4時間)でPREDA FoundationというNGOでインターン中。フィリピンの色々な側面を知りたいと、現地の人に交じって生活しています。 (※Facebookでの目的が曖昧なコンタクトや友達申請は控えて頂けると幸いです。)