キーエンス内定者。国際交流サークルで会長を務め、スタンフォード大学での研修プログラムに参加、そして韓国への6カ月の留学も経験されている姜(かん)さん。キーエンス内定までの軌跡、大学での積極的な活動の源泉となった、高校時代の1年に渡るカナダ留学を中心に、国際経験豊富な姜さんの人生に迫りました。
ーー高校の時から留学している方って日本だと珍しいと思うのですが、カナダに行かれたキッカケを教えてください。
僕は意外な人をライバル視する傾向があるんですけど、2つ年上の錦織圭選手がキッカケなんです。彼がフロリダにあるテニスのトレーニングセンターに単身で行ってジュニアのトップ選手と切磋琢磨しているという報道に刺激を受けて留学を決めたところがあるんですよね。そこまで錦織選手を好きだったわけではないんですけど(笑) 一人で侍のように世界と戦っている姿を見て勇気づけられたというか。(錦織選手は)体格が恵まれているわけでもないですし、語学の壁もある中で頑張っている姿が格好良かったんです。それを見て、海外に行くか行かないかで迷っている自分が馬鹿らしくなったんですよね。この(錦織選手との)差は何なのだろう?と強く感じました。同年代との差が開いていくのがイヤだったので、いま興味があることに全力で打ち込もうと思って、当時一番興味があったカナダに行くことを決めました。カナダでは習慣や言葉の壁にぶち当たったんですけど、錦織選手を頭の片隅に意識しながら自分を奮い立たせていましたね。
ーー壁にぶち当たったというのは具体的にどんなエピソードがあったのですか?
まず教科書が読めないんですよね。日本の教科書の分厚さって1センチくらいじゃないですか。カナダってその3倍くらいあるんですよ。「はいこれ読んできてね」って先生から30ページくらいの宿題を出されるんですけど、この量って日本で学ぶ1年分くらいの英文の量なんですよね(笑)週末のたった2日で1年分やれってことなんです。読まれへん!と思って辞書で調べても出てこないし。だから喋ったことのないクラスメートにひたすら単語の意味やニュアンスなどについて質問してました。もう必死でしたね(笑)その作業が大変でこの先やっていけないなと思いました。でもクラスメートに無理やり食らいついて質問して「じたばた」することが、友達をつくるキッカケになったんですよ。数学なんて当時プラスとマイナスしか用語として言葉が分らなかったんでね(笑)そんな時にも、親身に教えてくれるクラスメートがいたので本当に助けられましたね。その「じたばた」のおかげで友達の輪が広がって徐々に壁を乗り越えられました。
ーーカナダで得た価値観や考え方ってありましたか?
やりたいことを全部やる、ってことですね。失敗してから悩めばいいと思うようになりました。始める前から成功した時、失敗した時のことを想定して、時間だけが経って結局何もしていないというのが一番もったいないなと。失敗も含めて経験しておけば必ず得られるものがあるはずだと、冷静に考えられるようになりました。海外の人たちって、良い意味で深く考えずに行動することが多いんですよね。日本だと自分のしたいことを言うと「何でそれしたいの?」って周りの人からよく問われるんですけど、海外は「いいね!やりなよ!」というスタンスなんです。目的を問われないんです。感性で行動していると言いますか。サポートする周りの大人たちも伸び伸びしているんですよね。この価値観が、僕の大学生活での行動力に繋がりました。逆に日本人って思いついてから行動に移すまでの時間が長いと思います。海外の人は、気がつけばもう実行している気がします。周りの目を気にする日本人の性格が出ているのかもしれないですね。そこまで周りの目って気にする必要無いんです。だから僕もとりあえず目の前のドアを開けてみる、ということを心がけています。 大学に入ってから、ドイツ国際平和村という場所に寄付金を渡しに行く機会があったんですけど、「東北大震災で苦しんでいる人がたくさんいるのに、なぜ海外なの?」という批判を受けたんです。他にも、韓国に半年留学する前も「1年行くべきだ」という声があったんです。でも「自分のしたいようにする」という意志があったので、素直に実行できたんです。海外の「好きにやりなよ」というスタンスも自己責任の上で成り立っているんですよね。「覚悟をもって実行しなさい。責任は自分にあるよ。」って意味でもあるんです。だから周囲の批判があっても、実行できました。そういう価値観を高校時代に得られたのは本当に大きかったですね。
ーー就職活動でどういった企業選びの判断軸を持たれていましたか?
最初は軸は無かったです。考えていない訳ではないですけど、自分のどこかに必ずあるものだと思っていたので、意識はしてなかったですね。例えば、服を買う時に青の服ばっかり選んでいたら、好みの色が青だと自然と気付くじゃないですか?だからそんな感覚で、色んな業界を見てから決めればいいや、と思っていました。惹かれていく部分を分析していくうちに軸が形成されていったというイメージです。これも「行動を起こしてから考える」というカナダ留学の経験が生かされていますね。まずは情報を収集して自分と合わない部分を省いて、残った中から面白いと思う企業を選んで受けていきました。
ーー就職活動中に悩んだことってありましたか?
悩みは…無かったですね。周りの友達の多くは「もう二度と就活したくない」ってよく言っているんですけど、僕はもう一回したいと思うくらい楽しかったです。その理由としては、色んな人に会う機会が出来たという部分ですね。トップクラスのITベンチャーの社長とご飯に行けたりもしたんですよ。それはインターンシップで優勝した特典だったんですけど、焼き肉に連れていってもらって直接お話を聞くことが出来ました。他にも「就職活動中です!」と言えば、大学の先輩も相談に乗ってくれたり、社会人の方を紹介してもらえたり。カナダでの話もそうですけど、就活も自分から「じたばた」しないと何も得られないんですよね。僕はその「じたばた」せざるを得ないというプレッシャーをエネルギーに変えて取り組めたと思います。色んな人に会ってたくさん知らなかった情報を集められたのが一番ためになりましたし、それが悩む必要が無かった理由です。
ーー色んな方々と会って、姜さんの企業選びの判断軸というのは、どのような結論が出ましたか?
正直、日々変化してましたね。ただ最終的には、魅力的な人と働きたいと思っていて、「何をやるか」というより、「誰とやるか」を意識してました。絶対に外せないことは仕事が楽しいことだったんですけど、それを形成する柱が3つあって、 ・同僚・仲間が魅力的で ・社会に貢献できる商品を持っていて、 ・自分の成長を感じることができる という部分です。この3つを満たしている企業を探してましたね。
ーーその企業選びを通して、内定先をキーエンスさんに選ばれた理由は何だったのですか?
先輩社員の皆さんの雰囲気に魅かれるものがあったんです。エネルギッシュと言いますか。自分が今持っていないけど、社員の方々が持っているモノがありましたね。入社してそのモノをゲットしたいと思ったんです。その「持っているモノ」というのは具体的に言葉にするのは難しいんですけど、「また会いたい」と思わせてくれる雰囲気があったんですよね。
ーー姜さんの企業選びの3つの柱に沿ってお聞きしたいのですが、キーエンスさんの社員の方々の魅力って何だったのですか?
ギャップですね。何をしている企業なのかも知らなかったし、お給料が高くて、40歳で墓が立つって言われる企業ってどんなところだろう?と思っていましたね(笑)最初は堅いイメージを持っていたんですけど、企業説明会でパロディのPRムービーが流れて拍子抜けして、イメージが崩れました(笑)惑わしているのかなと思って一瞬は疑い深くなったんですけど、社員の方も元気で親身になって話をしてくれるので、自然と惹かれていきましたね。
ーー実際にキーエンスさんが何をしているかを知っている方は少ないと思うのですが、どのような業務があるのですか?
まだ実際には働いたことの無い内定者なので、詳しくはお答え出来ませんが、分かる範囲でお伝えしますと、キーエンスは8つの事業部から構成されている会社で、最近何かと話題の3Dプリンターや、3000倍の電子顕微鏡を扱っています。 主力商品はセンサーで、分かりやすく言うと「人間の五感(視覚・聴覚・触覚など)の代わりに判断する機器」がセンサーです。例えば、色や温度、距離、角度などです。あまりセンサーは身近な存在でないように思えますが、皆さんの家にあるスナック菓子やカップラーメンや飲料などを容器に入れる時に、最適な量や数、種類を正しく入っているかセンサーがチェックしています。人間が行うよりも大幅に効率よく工程が進むので、メーカー企業にとっては欠かせない存在です。その結果、間接的に皆さんの生活を支えています。これはほんの一例ですが、他にもキーエンスの製品が医療や交通など、様々なフィールドで活躍しています。
ーー姜さんの3つの柱の中の「成長」って様々な意味があると思います。仕事でスキルを身につけるのも成長ですし、人間性を磨くのも成長だと思うのですが、姜さんの成長の定義について教えてください。
よく就活生が使う言葉の中で僕が疑問を持っているものがあって、それが「成長」だったんです。僕も就職活動中は「成長」の定義付けは出来ていなかったんですけど、キーエンスの最終面接で「姜さんの言う成長って何ですか?」と面接官に聞かれたんです。その場でポロっと出た回答が僕の思う定義なんですけど、「今ある現状から理想へ1歩でも近づけば成長。それ以外の道へ進んでもそれは成長ではない。」と答えたんです。例えば、画家が腕立て伏せを100回できるようになっても、体力面では鍛えられているけど画家としての成長ではないですよね。じゃあ理想って何?という話になると思うんですけど、求められる人材になるのが僕の理想ですね。ビジネスパーソンとして「おまえ頼んだぞ!」と言われたいんです。本田圭佑選手のPKみたいな感じですかね(笑) 周囲から頼られる、実力と信頼を兼ね備えた人材になりたいです。
ーー海外に行ったことによってプラスになったことは何ですか?
やっぱり「日本が全てじゃない」と知れることですね。 海外に行かない人によく言っていることなんですけど、世界を料理バイキングだと思って欲しいんです。そこにはパスタとかチャーハンとかフォアグラとか色んな美味しいメニューがありますよね?ずっと日本にいるってことは、そのバイキングで一種類しか食べないのと同じだと思うんですよ。日本にいては世界中の国を全ては楽しみきれないし、そこにいる人に会えないですよね。もちろん日本に居続けることが悪いとは思わないです。ただ、世界を知らずに生きるのはもったいないし、少なくとも僕は死ぬ時に「海外行っとけば良かった」と後悔したくないんです。 以前ポーランドに行ったときに「あなたの知っている日本人は誰ですか?」と現地の人に質問してみたんですけど、みんな真っ先に「葛西紀明!!」って答えるんですよ。驚きましたね。イチロー選手でも渡辺謙さんでもなく。逆に彼らはイチロー選手や渡辺謙さんのことを全く知らなかったんです(笑)こういう自分の知らなかった日本の新しい面に出会う瞬間が楽しいですね。
ーー日本から海外へ留学に行く学生が近年減っていると報道されていますが、どうお考えですか?
日本って居心地いいじゃないですか?だから居心地のいい場所に留まる気持ちも分からなくはないんです。ただ、僕の印象ですけど、日本人は“知ったか”が多い気がします。韓国や中国について、行ったこともないのに「嫌い」と言っている人結構いますよね。あと、僕の母親も未だに「アメリカ人は家で靴を履いている」と勘違いしているんですよね。固定観念で判断するのではなくて、自分の目で確かめたものを信じるべきだと思います。 まずは、海外から日本に来ている留学生と話すところから始めてもいいと思います。「働く」という面で見ると、20年後、30年後には、いま名古屋に出張に行っているような感覚でシンガポール出張に行くことになると思うんです。そのためにも海外に適応できるようになっておく必要があると思っています。
大学って遊園地みたいなものだと思うんですよね。面白いサークルがある、名物の講義がある、バイトが出来る、他にも色んなことができますよね。大学生は色んなアトラクションがあるところの4年間のフリーパスポートを持っているようなものだということです。学食で喋っているだけ、授業は出席点もらうために行くだけ、それではせっかくの大学生活がもったいないですよね。だから、元を取るべきだと思うんです。人って、知らず知らずのうちに時間やお金を費やしているんですよね。僕の場合は4年で学費400万ですから。値打ちあるモノにしないと親に申し訳ないです。 その時間やお金を値打ちあるモノに自分で変えていって欲しいと思います。