何かを極めるのに、経験した年数は関係なくなってきているのは間違いないでしょう。将棋の世界では14歳のプロ棋士が現れるなど、才能が開花されるまでの年齢は徐々に下がってきているようです。
今回編集部でインタビューしたのは、女子高生として学生生活を送りながら、ベンチャー企業の専務取締役を務める今井彩碧さん。17歳にして企業経営に携わるスーパー女子高生は、どんなきっかけでビジネスに触れ、今に至ったのかを伺いました。
JK専務「あやみん」こと今井 彩碧。高校3年生。高校1年生からエンジニアやデザイナー、事業のプロデューサーとしてベンチャー企業5社以上に携わってきた。昨年度末まではIT系ベンチャー企業のCOO(最高執行責任者)として企業の経営に携わる。現在は株式会社リーバンスの専務取締役として教育事業の代表、そして夢高等学院の代表をも務めている。
──現在されている活動を教えていただけますか?
高校に通いながら、教育を軸として事業を展開する株式会社リーバンスの専務取締役として教育事業部の代表を務めています。教育事業部では、主に予備校の運営と教育コンサルティング、高等学校運営を行っています。
弊社が今一番力を入れている事業が、起業家を目指す学生のための新しい高等学校「夢高等学院」の運営です。私は運営代表として、開校に向けてさまざまな作業を進めています。高校生の私が高校の運営代表を努めるとは思ってもいませんでしたが、入学する生徒さんの未来のために、全力を尽くしたいと思っています。
高校1年生の時に働き始めてから高校3年生の今までに、5社を超える企業にてお仕事をしてきました。初めはエンジニアだったのですが、デザイナーやライター、人事など様々な職種を経験した後、取締役を2度経験しています。
平日は朝6時すぎに登校し学校で授業を受け、放課後17時頃から飯田橋にあるオフィスで仕事をし、22時頃に帰宅します。土曜日は午前中は学校で授業を受けて、15時頃から仕事。日曜日は、朝から晩までみっちり仕事をしています。
受験を控えた高校3年生なので、仕事の合間を縫って勉強もしています。もちろん、勉強には弊社の教育システムを取り入れています。(笑)
──結構忙しいスケジュールですよね。「同級生のように遊びたい」と思うことはないんですか?
意外だと言われますが、ベンチャー企業でのインターンを始める前までは、地下アイドルの追っかけをしていたんです。(笑)地方を拠点にしているグループで、小さいグループながら頑張ってる姿が私にとってはイキイキして見えました。ライブに行き、CDを買って握手するために沢山の時間を使って、それ以外の時間は友達とプリクラを撮ってスタバでおしゃべり。ただただ、時間とお金を浪費する毎日でした。
今思えば、ステージの上で汗を流して頑張っているアイドルの姿を、「自分のありたい姿」と重ねていたのかもしれません。でも、どれだけアイドルに熱中しようと、使ったお金や時間が「スキル」や「経験」として自分に返ってくることはない。
「自分自身も何かに打ち込みたい!」と考え、その熱をお仕事へ向けるようになりました。いまでは仕事に熱中できる日々がとても充実しているように感じます。もっと早くからプログラミングやインターンをやっておけばよかったと思うこともあります。
──アイドルの追っかけをやめてベンチャー企業で働き始めたのは、何かきっかけがあったんですか?
プログラミングに出会ったのが大きな転換点でした。中学3年生の夏休みに弟から誘われ、「3日間でゲームを作る」という短期のプログラミング講座に参加したんです。これが自分の中での大きなカルチャーショックでした。
参加するまでは、ゲームは頭の良い大人が作るもので、中学生でも作れるなんて想像したこともありませんでした。受験勉強をして大学に入って、卒業した後にゲーム会社の人たちが作るというイメージでした。
でも実は、中学生の私でも、たった3日でゲームを作れた。その事実に後押しされ、プログラミングの勉強を始めたんです。「ただアイドルやゲームを楽しむ受け身な自分」から、「人を楽しませるために何かを作る自分」へと変わった大きなきっかけでした。
──その後ベンチャー企業でインターンをすることになったのは、どういったきっかけがあったのでしょうか。
ベンチャー企業への興味を持つようになったのは、SNSがきっかけです。前述のプログラミング教室で出会った高校生たちと交流するために、まずTwitterのアカウントを作り、しばらくして「JKがプログラミングやってみた」という名のブログを始めました。Twitterやブログで、プログラミングを通して学んだことへの”気づき”を発信していたんです。
ある日ブログでIT教育についての記事を書いたら、SNSでシェアされ、とあるベンチャー企業の社長からダイレクトメッセージが来ました。もちろん少し怖かったのですが、会ってお話しすることに。その日をきっかけにベンチャー企業に興味を持ち、起業家をフォローするようになっていったんです。
その後も発信を続けていくうちにインターンのお誘いを受け、二次元のキャラクターと会話できるロボット「Gatebox」を制作する会社で夏休みの2ヶ月間だけエンジニアとして働くことになりました。
今となっては海外メディアで取り上げられるほどのプロダクトになった「Gatebox」ですが、当時はまだ企画段階。その後、製品がリリースされて公開されたPVを見ると、なんと、私が携わった部分がまだ残っていたんです。私が作ったものが、海外に広く届いている事実に感動しました。
高校生のうちからベンチャー企業で働きたい、という気持ちが確固としたものになった夏でした。お金があって、一緒に製品を作る仲間たちがいて、売ってくれる人たちがいれば、自分が作ったもので多くの人を喜ばせられるんです。
その後エンジニアは一旦辞めて、もっと視野を広げてみようと他の職種にも挑戦しました。ライターをやってみたり、プログラミング教室でカリキュラム制作をしたり、女子高生向けの事業企画に関わったりと、複数の企業を掛け持ちしながら、新しいことに取り組みました。
一度やってみないと何が自分に向いてるかなんて、わからないと思うんです。もしかしたら、やりたい仕事はエンジニアではないかもしれない。周りが就活を始めるような時期まではまだ時間があるから、もう少しいろんなことに挑戦してみたいです。
──年齢が上の人と仕事をする中で、自分が若くて苦労したことはありませんか
「社会人ってすごいな」と思うことは多々あります。やはり、短期的には知識や経験の量では大人には敵いません。また、若さを理由に、SNS上で私を叩いてくる人たちもたくさんいます。Twitterで匿名のアカウントから「女子高生だからそういうことができるんだ」と、わざわざリプライを飛ばしてきたりすると、落ち込むこともあります。
でも、「使えるものを使わない」のはもったいないことだと思うんです。以前、女子高生起業家だった椎木里佳さんも、お父さんの力や慶應というブランド、自身のビジュアルまで全て活用している。
何か言われるのは仕方ないから、せっかく持っているものは生かした方がいい。今はグッと堪えて、「若さ」や「素直さ」という武器に助けてもらいながら活動し、3年後や5年後にもっと広い世界を見てみたいです。
──若いときは、経験が少ないからこそ、周りから助けてもらうことも大事ですよね。応援してもらえるような工夫をしていたりするんですか?
実は私、結構傷つきやすいんです。かつては自分が取り組んでいることを家族や学校に理解してもらえず、孤独を感じた時期もありました。今でもふとした時に、そういう気持ちになることはあります。
だから自分のモチベーションを確認するために、応援のリプライやダイレクトメッセージをスクリーンショットで保存した、「モチベーションアップ」というアルバムをスマートフォンの中に作っています。落ち込むことがあってもマイナスな感情に左右されないよう、応援してくれる人たちのことを考えながら頑張っています。
両親もはじめは「高校生なんだから勉強しなさい」と反対気味でしたが、「学校の勉強とは違う勉強だから、させてほしい」と言い続け、Twitterの皆の反応や自分がクローズアップされた記事などを見せて納得してもらい、今は応援してくれてる。周りに反対されることもありますが、理解をしてもらい、協力してもらえる自分でいられるよう心がけています。
──普通なら、「親や先生のいうことを聞いておこう」となると思うんですが、それでも仕事を続けられるのはどうしてですか?
やっぱりもう、ただ遊んでいただけの時期には戻りたくないんです。私の高校は大学附属なのでそのまま大学に進学できるし、受験をしなければきっとダラダラと学生生活を過ごして、会社に入ってOLとして働き、一生を終える。俗に言う普通の人生だったと思います。
Twitterを見れば、同世代の起業家が活躍していたり、私より「ヤバい」人たちが溢れるほどいる。悔しいけれど、「私も負けていられない」という気持ちは強いですし、「ここで諦めたら私の人生が終わる」くらいの気概でやっています。
──最後に、将来的にやりたいことや、挑戦してみたいことはありますか?
私は近い将来、IT教育に携わりたいんです。自分の人生を変えてくれたのは、やはりあの3日間のプログラミング講座だったから、リーバンスでの教育事業を通して、私のような人をもっと増やしたいという思いがあります。
昔から負けず嫌いですが、今までは負けるのが嫌いだから戦いの土俵にも立ってきませんでした。得意でないことは初めから避け、挫折だって一度も味わったことがない。けれども、一歩踏み出して成功するかわからないことに挑戦してみて、挫折や失敗を繰り返したからこそ見える景色があった。そして、目指していた景色を見ることができるたら、また新たな景色を見たいと思うようになったんです。
私のように、思いがけないきっかけから人の可能性が開けることがあるんです。まだ自分が持つ大きな可能性に気付いていない子や、まだ踏み出せていないけれどきっと心の中ではその可能性に気が付いている子たちに、まだ見たことがない世界があることを伝えたい。そのためにも、私自身が中高生のロールモデルのような存在になり、発信を続けていかなければならないと思っています。
取材・文:奥岡けんと