12月の新潟。冬の寒空の下で、あるイベントが開催された。集まったのは総勢200人の小学生、大学生、そして社会人。
そのイベントの名は「100m!ピタゴラスイッチ大作戦!!」
単にお楽しみで終わらない、このイベントの背景を、主催する学生団体の副代表に聞いた。
「学生団体CANs」
新潟大学に在学中の学生5人によって結成された、参加者の「自己肯定感・自己有能感醸成」を目的にイベントの企画・運営を行なっている学生団体。 2016年12月4日開催の『100m!ピタゴラスイッチ大作戦!!』には新潟市内の小学生約112人、大学生・社会人約88人が参加し、「地域課題の解決を図る活動」として認められ、新潟市教育委員会の後援事業・新潟市地域活動補助金の交付対象事業に認定された。
━「100m!ピタゴラスイッチ大作戦!!」、かなりキャッチーな企画ですね。
成澤:ありがとうございます。子どもたちに「できた!」という成功体験を得ることで自分に自信を持ってもらいたいという目的で開催した企画で、当日は多くの小学生や大学生、社会人の方々に参加していただくことができました。結果としては、残念ながらピタゴラスイッチを100mつなげるという目標は達成することができなかったので、子どもたちに自信を持ってもらえる経験になったかという点では正直疑問の残る結果となってしまいました。
ただ、終了後のアンケートでは小学生の91%、参加者全体の87%から5段階中5の評価を得ることができたので、次回の開催に向けて「なぜ達成できなかったのか」「どの点がいけなかったのか」を検討していきます。
━どのような点で苦労しましたか。
成澤:「ピタゴラスイッチ」は認知度も人気も高く、子どもたちを引き付けるという点でベストだと思い、選びました。ただ、「難しすぎず易しすぎず」を意識した難易度の設定には苦労しましたね。
成功してもらうためには難しすぎてもいけませんし、簡単すぎては成功体験として薄いものになってしまう。そのバランスを見ながら準備段階に100個以上の仕組みの装置を作り、どの装置がベストな難易度か検証を重ねました。小学生でも理解できるような説明プリントの作成や学生スタッフに見てもらうための動画なども用意しました。
企画の内容自体の他にも、そもそも企画を開催できるようになるまでにも時間がかかりました。
どんなに強い思いがあっても第三者を相手にするからには自分たちの思いだけではどうにもならないことも多いです。
参加者やサポートを集めるという点で、社会的に信頼度は高くない学生が運営する団体である以上は周囲からの信頼を得ることは特に意識しながら行動していましたね。企画書や予算案などの書類関係はなんども見直して徹底してミスを無くすところから、参加者の募集に関しては昼休みや放課後に時間を作っていただいて、市内の小学校を訪問して子どもたちに直接話しました。実際に顔を合わせることで信頼度は格段に高くなると思ったので。
信頼を得るためには、こうした基本的なことが大事だと思います。
━成澤さんは、どのような思いで「学生団体CANs」の活動を行っていますか。
成澤:僕自身、「学校にはない物差しを作りたい」という思いで活動を行っています。
そう思い始めたきっかけは、留学した際に「海外と比べて日本は自分自身に満足している子ども人が少ない」ということを実感したことなんです。
日本と比べると決して豊かとはいえない発展途上国でも、現地の人は自分と国に誇りを持っています。貧しくても社会的に恵まれた立場でなくても「私は幸せな人間だ」と自分自身に満足しています。ところが日本ではそうではない。
私自身、大学に入学するまではあまり自分に自信がありませんでした。勉強第一の家庭で育ち、常に優秀な兄と比較され、いくら勉強をしても認められることがなかったため、何をしていても心のどこかで自分に無力感を感じていたんです。しかし、大学でヒッチハイクや海外交流、漫才や司会など様々なことに挑戦し、成功体験を積んでいくなかで、いつの間にか自信を持てるようになっていました。この経験から、少しでも多くの人に自信を持ってもらうために何か自分にできることはないかと思い始めました。
なぜ日本人は自分に満足している人が少ないのか。それは、限られた機会でしか評価されていないからだと思います。
特に現段階の学校現場においては、成功体験を得られる機会が「学業」に集中しすぎているのではないでしょうか。「部活」「クラブ」「委員会」など様々な活躍機会も存在していますが、結局は「勉強」という物差しが優先されてしまうので、学業以外の物差しを作る必要があるんだと思います。 私が自信を持てるようになったのも、家庭の中で優先されていた勉強以外で、自分自身を認められる色々な物差しがあることに気づくことができたからでした。
子どもが活躍できる学業以外の新しい場所をつくりたい。
「絶対無理」なことが「できた!」に変わるあの感動体験を味わってほしい。
そんな思いで「学生団体CANs」としての活動をしています。
━結成するきっかけとなる出来事などはありましたか。
成澤:「人に自信を持って欲しい」と思ったのが一番の理由ですが、しいてあげるなら大学2年の時に参加した東京でのインターンシップです。
様々な背景を持つ学生や社会人との交流によって、多くの刺激を受けることもできました。しかし、当時は一週間のうちの5日を新潟で過ごし、2日を東京に挑戦しに行く生活。そんな日々に対して「東京に認められに行っているのではないか」という疑問を感じ、いつしか「東京に行って勝負するよりも、新潟で週7日打ち込みたい。新潟で本気になって、価値の高いものを、本当に人のためになることをやってやろう」と、新潟で挑戦することを決意しました。
しかし、実際に新潟でどんなことを行えるか。
そう考えたときに、以前から同じような思いを抱いでいた代表の中井と意気投合し、団体を結成しました。
━今後のビジョンを教えてください。
成澤:今後は子どもだけでなく、親御さんやと子どもの協力による成功体験や中学生向けなど、対象やコンテンツを広げ、「できる(can)」を通して社会をより良くしていきたいと思っています。
団体としても、単に「『楽しい』を提供する学生団体」で終わらず、付加価値としてお金が発生するような「社会事業を行う団体」を目指しています。お金を払ってもCANsに行きたいと思ってもらえるようコンテンツや信頼関係を作っていきたいですね。
━成澤さんが物事に挑戦するにあたって心がけていることは何ですか。
成澤:常に心がけてきたことは「自分がやりたいことに本気で打ち込むこと」です。やりたいことに挑戦していくなかで、「無理かもしれない」と思ってしまうような大きな問題にぶつかることもありますが、本気で打ち込むからこそ得ることできる、学びや仲間があると思うので、「絶対できる」と自分を信じて本気で取り組めば必ず結果がついてくると思って行動しています。
もし何も打ち込みたいと思えるものがなければ、「やってみたいこと」や「興味のあること」を探すための行動も大切だと思います。本を読む、色々な人に会って刺激を受けるなど、できることはあるはずです。
私自身もまだまだ挑戦したいことだらけ。常に「なりたい自分になるためにはどうすればいいか」を考えて、壁にぶつかりながらも日々模索していきます。
1995年、群馬生まれ。新潟大学教育学部在学中。生協学生委員会に所属し、多くの企画の運営に携わりました。現在は複数のwebメディアでインターン、学生・取材ライターとして活動中。社会福祉、地域の魅力発信に興味を持っています。好きなことは飲みニケーション!