前回の記事では、TPPが「貿易について、国家間のルールを決めよう」としていることを説明し、特に農業分野におけるTPPの影響について述べました。TPPのメリットは、外国産の製品が安く手に入れられることです。同時に、国内の農家は輸出によるビジネスチャンスが生まれます。逆にデメリットとしては、安い外国産の製品に競り負けて、国内の農家が打撃を受けることなどが挙げられます。そして現在、TPPは国家間の批准を待っている段階にあることにも言及しました。
TPPに賛成か反対かは、各個人や団体によって違います。JAをはじめとする農業団体は反対の立場を取り、次期アメリカ合衆国大統領となることが決まったトランプ氏は、TPPに強く反対しています。今回の記事では、そんなトランプ氏がアメリカ大統領に当選したことで発効が絶望的と言われるTPPについて、筆者が賛成する理由を述べ、TPPについての議論を深めていきます。
TPPは「開かれた自由市場」を作ると言われています。私がTPPに賛成しているのは、TPPが作る関税のかからない「開かれた自由市場」が、各国の不得意を補って協力し合う、より良い市場を作り出すと考えているからです。
豚肉を例にして、日本とブラジルのどちらが豚肉生産に適しているか考えてみます。この比較によって、なぜTPPが「開かれた自由市場」になるのかを説明していきます。前提として、豚肉を生産するためには、豚が毎日大量に食べる飼料を少ない費用で効率的に賄える広大な土地が必要です。この点で、より国土が広く、平坦な土地が多いのはブラジルです。加えて人件費や肥料の価格が日本より安い。
このことからブラジルの方が豚肉生産に適しているのは明らかであり、逆に山地が多い日本は向いていないことがわかります。
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「開かれた自由市場」というのはシンプルなものです。「ある製品(この場合は豚肉)を生産するべき国は、もっともその生産に適した環境にある国」という考え方です。この考えに従って各製品を得意とする国が生産し、関税による障壁のない自由貿易が発展すれば、消費者は安く製品を手に入れられます。これは豚肉に限らず、あらゆる産業や製品においても同様のことが言えます。
つまりTPPは、国同士の得意な産業を活かし、不得意を補い合う市場を作るということです。
日本は今まで関税を使って国内農業を保護してきましたが、市場ではグローバル化が刻一刻と進行しています。日本もこの変化に適応する必要があるのです。何を選ぶのかは、わたしたち消費者です。もし、「安価な豚肉は、安全性に疑問を持つので買わない」、「単にブラジル産の豚肉は、おいしくないから買わない」といった考えを持つ方々がいても、それは当然のことです。
しかし、時代の変化に適応する者の方が長く生き残れるはずです。日本の農業は、過保護によって競争力を失った大木になるのか。それとも、世界と勝負できるプレイヤーとなるのか。私は後者になって欲しいと考えます。
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ただし農業に関して言えば、TPPの批准によるデメリットが多いように見えます。TPP締結によって、国内の農家は損をします。これに対しては、日本政府が所得保証をするなどの基本的な施策を実行するべきです。それは、世界市場と戦って敗れたからといって放置していいものではありません。グローバル化という弱肉強食の世界の中にも、人間的な対応が必要だと考えます。もし、正式に日本がTPPに批准した場合は、理論的な政策と現状を加味したバランスの取れた対応をとるべきではないでしょうか。
福岡県出身。千葉大学園芸学部3年生。大学では、農業経済学を学んでいます。TPPを初めとした社会の旬な話題ついて、「分かりやすい」、「おもしろい」をモットーに解説記事を書きます!