初めまして! 千葉大学園芸学部に所属しています中島 大耀(なかしま ひろあき)です。 大学では農業経済学を学んでおり、TPPなど今が旬の話題について、 「分かりやすい」、「おもしろい」をモットーに解説記事を書きます! 宜しくお願い致します!
最近ニュースなどでよく見かける「TPP」ですが、具体的には何なのか分からないといった声が聞かれます。一見、難しそうに見えるTPPですが、言葉が難しいように見えるだけで実はそんなに難しくありません。
今回は、このTPPについて詳しく説明し、特に農業分野に与えるTPPの影響をまとめ、考えてみました。
正式名称は「環太平洋経済連携協定」ですが、簡単に言えば、「貿易について、国家間のルールを決めよう」としています。むしろ「今までルールはなかったのか?」という疑問が出ると思いますが、今までのルールは、日本とオーストラリア、日本とインドなど、二国間での取り決めが多かったのです。
今回は、「環太平洋」と名付けられているように、「主に太平洋に面する国々」が集合してのルール決めとなります。
ではなぜ、多国間で取り決めを行わなければならないのでしょうか? それは、国の貿易をスムーズに行うためです。
二国間のルールがたくさんある状況では、「A国とはこのルールなのに、何で隣国B国では全然違うルールなんだ!」と不満がでたら面倒ですよね。それよりも、統一したルールの中での貿易の方が、よりスムーズに貿易を行えます。多くの国同士が、同じルールの中で貿易するメリットを享受するため、今回のTPPには多くの国が参加しています。
現在のメンバーは、最初に始めたシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドに加えて、途中から交渉に参加した日本や米国、カナダ、マレーシアなどです。
ここで注意しなければいけないのは、議論に加わっている日本や米国も含めて、正式にはまだ、「ルールに従うという契約を結んでいない」状態だということです。
国際的なルールを決める際には、まず各国の代表者が集まってルールを決めます。しかし、この段階では「代表者間の合意」でしかなく、各国の国民の意思は反映されていないですよね。なので代表者が決めたルールを一度国内に持ち帰り、国民の指示を得て成り立っている議会で承認される必要があるわけです。議会での承認が得られると、「ルールに従うという契約を結んだ状態」となり、つまりよくニュースで聞く「批准」という段階になります。
2016年9月末現在、日本や米国など交渉参加国は、この「批准」を待っています。TPPの中身は決定しており、それを各国議会で承認する段階なのです。
TPPの主な目的は、「関税」という貿易の制限となる障壁を取り払うことです。
人件費の違いや大規模生産によって安く作られた海外の品物に対して、価格が高い国内の品物が負けてしまわないように、税金をかけて海外の品物の値段を上げます。この税金が「関税」で、は国内の農家を守るためのものなんですね。
例えば、コメは日本人の主食であるために国内の農家数が多く、農産物の中でも特に慎重に扱われる「聖域」と呼ばれる重要品目の一つとなっています。「聖域」とは”特別な例外”で、コメを含めた重要五品目と呼ばれます。
なぜこれらが特別扱いを受けるのかというと、例えばコメの場合、農家数が多く、政治家にとっては選挙の時に大きな組織票となるからです。コメ農家を優遇する政策をすれば次回の選挙でコメ農家から投票されやすくなるということですね。こういったまとまった票のことを「票田」と言い、地方の選挙区ではこの票田が重要視されるため、米農家を優遇せざるをえない状況となっているのです。事実、国から米農家に対して毎年大量の補助金が出ています。
こういった事情もあり、国側としてもコメという「聖域」を守りたい気持ちがあるのです。
今回のテーマである「TPP」は、関税をいかに下げ撤廃し、障壁のない自由な貿易環境を作れるのか、というのが話し合いの重要な的となっています。
国内の農家を守るために大切な「関税」をなぜ撤廃してしまうことを目指すのか? その問に答えるためにTPPの具体的なメリットを見てみましょう。
TPPの国内農業におけるメリットをまず整理してみます。
スーパーで販売している豚肉を思い浮かべてみて下さい。実際に豚肉を手に取って比べた時、国産の方が品質は良いかもしれませんが、安いブラジル産を購入することもあるのではないでしょうか。食品の安全性よりも、現実の懐事情の方が、私たち消費者にとって重要な要素になることがあります。
TPPによって関税が取り払われると、外国産の安価な豚肉が大量に出回ります。何を購入するかを決める権利は私たち消費者にあり、豚肉を安く手に入れられることがTPPのメリットの一つとして考えられます。
一方、国内の農家は、関税が無くなれば今までよりも安く作物を輸出することができ、日本の高品質な生産物を輸出できるチャンスがもっと生まれます。今までは国内向けだった商品を、海外に売り出すビジネスチャンスになるのです。
次に、デメリットです。
前述したように、筆者のような安い物を好む消費者が多くなると、国内の畜産農家は立ち行かなくなります。なぜなら、安価なブラジル産の豚肉に押し負けて、国内産の豚肉が売れなくなるからです。
もしTPPによって外国産の豚肉がスーパーを席巻するようになれば、国内の畜産農家が大打撃を受けることは間違いないでしょう。それによって失業するような畜産農家が出てくることは、TPPの大きなデメリットの一つと考えられます。
また、ルールの変更は関税の撤廃に留まりません。遺伝子組み換え食品の表示義務などが緩和され、企業にとって不都合なことは表示しなくてもいいようになる可能性があります。さらに残留農薬の規制基準も緩和されます。
つまり食品の安全性が低下してしまう懸念もあるのです。
国内では農業業界をまとめているJAが基本的にTPP反対の立場をとっています。これは当然のことで、先ほどから述べているように、TPPは国内農家にとって大きなリスクとなる存在だからです。
また、日本でも世間を騒がせている米国の大統領選挙ですが、ここでもTPPの賛成・反対を巡って議論が繰り広げられており、民主党代表のヒラリー・クリントン氏、共和党代表のドナルド・トランプ氏、両者とも2016年9月末現在はTPPに反対を表明しています。ここまで様々な駆け引きが行われてきた交渉も、最後の最後で批准に至らず終わる可能性もあります。
ここまでの動向を探ってみると、TPP賛成派は多くないようにも思えてきますが、日本政府や交渉参加国を含めた各国は、TPP締結に向けて前進しています。それはTPPを農業以外の分野で考えると全く別の側面が見えるからです。
例えば、農業関係者の間では激しいブーイングが起きている一方で、輸出によって利益を得ている自動車業界はTPPによって関税が無くなればさらなる恩恵を受けられると考えられています。
「あっちを取れば、こっちが損する」という板挟みの状況で、TPPの議論は難しい局面を迎えています。
次回は、このような状況の中で、私がTPPに賛成する理由をお伝えします!
福岡県出身。千葉大学園芸学部3年生。大学では、農業経済学を学んでいます。TPPを初めとした社会の旬な話題ついて、「分かりやすい」、「おもしろい」をモットーに解説記事を書きます!