イギリスから的場優季です。開発学部で「途上国」の貧困について2年ほど勉強していたら、日本の貧困のことが気になってきて、この夏期休暇中は東京のフードバンクで2ヶ月ボランティア・インターンをやっていました。
フードバンクとは、企業や個人から寄贈された食品などを、必要としている人に届ける仕組みや団体のこと。
例えば食品パッケージ作り。
「このおうちは子どもが3人いるから2箱作ってあげて」
「この方はガスや電子レンジを使えないから生米を入れず、非常食を多めに入れてあげて」
12~3kgの食品を箱に詰め、要請のあった家庭に送ります。
このようなフードバンクが日本にもあることをご存知でしたか?
2回に分けて、日本の食糧問題の現状やフードバンクの活動内容をお伝えし、私の体験・感想などを交えながら問題提起をしたいと思います。
下のグラフを見てみてください。
一億総中流などと言われていた日本は、いつの間にか人口の15-16%、約6人に1人が貧困という格差社会になっていたのです。
バックグランドとしては、ひとり親家庭、高齢者、非正規雇用の若者、外国籍の方など状況は様々です。
特に子どものいる貧困層となると、子どもの学歴や職歴、精神的にも影響があり「貧困の連鎖」の問題も指摘されています。フードバンクに来る方もお子さんがいる家庭は少なくありません。
私が日本の貧困について気になり出したきっかけは、「子どもの貧困」「若者の貧困」「高学歴ワーキングプア」などと言った単語がニュースの見出しに目につくようになったことです。
「相対的貧困率」という言葉の意味や実際の貧困ラインにあたる所得、貧困の原因などの説明は、私が書かなくてもたくさん出ているので、たとえばこちらや、実例のまとめなどはこちらを参考にしてください。
食べ物にアクセスできない人がいるけれど、食べ物が足りていないわけではない。
こちらの問題の方がピンとくるかもしれません。例えば、全国に5万店あるコンビニ各店が弁当を1日10食廃棄したとすると、弁当だけで1日に50万食捨てられている計算になるのです。
農林水産省によると、まだ食べられるにも関わらず廃棄されている食品ロスの年間総量は推定500〜800万トン。これは、世界の食糧援助の総量や、年間の国内コメ生産量にせまる数字と言われています(参考)。
個人的な話ですが、高校の家庭科の授業で日本の食品廃棄量について先生が数字をあげたとき、「世界には食べられない人もいるのに」となんとなく貧困問題と結びついてショックを受けました。
この時点では海外進学など全く頭になかったのですが、このとき受けたショックが後に留学先を選ぶ際に関心分野の軸となり、開発環境学部に進学することになりました。
また、大学では共有スペースや店に食品寄付用のボックスが置いてあったことから、日本ではあまり盛んではないフードバンクという活動についても知るきっかけがありました。
フードバンクという言葉、聞いたことがありましたか?何をしているかご存知でしょうか?
ここでやっと冒頭の説明ができるわけです。フードバンクは、余っている食品を貯蔵しておき足りなくなったら(困ったら)いつでも引き出せるという仕組み、もしくはそのシステムを運営している団体のことを言います。
外装の印字ミスやへこみ、野菜の規格外品、賞味期限の迫ってきた防災備蓄品、スーパーマーケットなどで決められた「3分の1ルール」にそぐわない食品などが企業から定期・不定期に寄付されます。
それらの食品を、児童養護施設や炊き出し団体へ運んだり、個人向けに食品パッケージを送付したり、炊き出しのために調理したりして必要な人へ届けているというわけです。
日本には42のフードバンクがありますが、諸外国と比べてその数や規模はまだまだ未熟です。例えばイギリスには428、ドイツには906、アメリカには203のフードバンクと6万を超えるプログラムのネットワークがあります。
日本では、ほぼ全てのフードバンク活動は児童養護施設やホームレスのシェルターなど団体が対象で、食べ物に困った個人が飛び込んで食糧を得られるようなところは東京に1つと、それからあちこちで行われている炊き出し活動くらいでしょうか。行政の福祉課などに非常食のような食品が置かれている場合もあるとも聞きましたが、なかなか気軽に行けるところではないですよね。
食品ロスを減らして貧困問題まで削減できるなんて、素晴らしい仕組みだと思いませんか。様々なメディアにも取り上げられています。
私も始めるまで、フードバンクは「食品ロスと貧困の解決を目指している団体」だと思っていました。
ですが働き始めてから気が付いてしまったのです。
この活動によって、食品ロスが出なくなるわけではない、むしろ食品ロスが仮に減ったら、ゼロになったら、必要な食品も寄付されなくなってしまう。そしてこの活動によって、困っている人に収入が入り生活が立て直せるわけではない。
どちらの問題の根本解決にもなっていないのです。
このことについて、スタッフの方にしつこく質問してしまいました。
すると、重きを置いているのは食品ロスや貧困の解決ではなく(結果的にアプローチになるとはいえ)、フードセーフティネットの構築、つまり困ったときに食べ物をいつでも引き出せるという仕組みづくりの方だったのです。「今日食べ物がない」という状況になってしまったときの、応急手当をする場所。そのために必要なのは、物流や倉庫、取りに来られる拠点など物理的なものや、団体同士のネットワークや知識などヒューマン・リソース。これを拡げることを目指しているとのことでした。
私も、「食品ロスや貧困はすぐにはなくならない。応急手当が必要なことには変わらない」「警察署が犯罪を根本解決するわけではない、起こってしまったことにプロが対応する場所だ」と考え納得できました。
またその団体では、行政や社会福祉協会、NPOなど提携している団体の紹介状を持って食品を受け取りに来る制度にしたことで、中長期的な生活再建計画を専門とするところとフードバンクの利用者が繋がる仕組みもできたそうです。
ちなみに、一口にフードバンクと言っても、他の地域では「もったいない(食品ロス)を減らす」ことを目標にやっているところや、フードバンクのスタッフの方が生活相談に乗るところもある、とのことでした。
フードバンクの活動について私がお知らせすることで仮にあなたが行動を起こしてくれたとしても、もしかしたらフードバンクで働いている方々の助けにはならないかもしれません。
私がお世話になった団体の理事長さんは、フードバンクの認知度は、フードバンクの目指すものとは全く関係がないと仰っていました。「野球を知っていてもあなたは野球をやろうと思わないんでしょう?」と。カギとなる人、必要としている人に知られることが重要なのです。そしてその人が行動を起こすこと。
でも私がこれを書いたのは、このような問題に興味がありそうな学生の方が実際に色々考えてみるきっかけになればと思ったからです。このインターンは2ヵ月間週3回という限られた中ではありましたが、知らなかったことをたくさん見ることができました。
ある日食品を引き取りに来た方が涙を流しながらも気丈に振る舞って、「食べ物が頂けるなんて有り難くって…これは汗ですよ」と仰っていたのが心に刺さりました。
次回は実際どんな業務をしていたかをお伝えします。