5月初旬、マッキンゼーで14年間活躍された赤羽さんによる、「圧倒的価値を身につけるための思考法」と題された講演会が開催された。
講演のサブタイトルは「20代・30代の過ごし方で人生は変わる」。
今の日本の社会状況を踏まえて、20代・30代がこれからどうやって生き残るかをテーマに、就活の面接対策にも役立つという、今身につけるべき思考法や、英語の学習法について、ワークショップを交えながら説明された。講演会の冒頭、赤羽さんが強調したのは「日本が大変な危機にある」ということ。
東京大学工学部を1978年3月に卒業後、小松製作所に就職。企業派遣で1983年から1985年までスタンフォード大学 大学院に留学し、機械工学修士、修士上級課程(MS、Degree of Engineer)を修了。帰国後の 1986年、世界的コンサルティング会社マッキンゼーに入社し、経営戦略の立案と実行支援、新組織の設計と導入、マーケティング、新事業立ち上げなど多数のプロジェクトをリードするとともに、マッキンゼーソウルオフィスをゼロから立ち上げ、120名強に成長させる原動力となった。2000年にシリコンバレーのベンチャーキャピタルに入社後、2002年1月、2人のパートナーと独立し、創業前、創業当初からの非常にきめ細かな支援を特徴とするブレークスルーパートナーズ株式会社を共同創業し、「日本発の世界的ベンチャー」を1社でも多く生み出すことを使命として多方面で活躍中。経済産業省、総務省で複数の委員を務め、大学で教鞭もとる。
日本の企業、日本の経営者は、デジタル化、グローバル化への対応が完全に遅れています。いまだにテレビ番組やドラマでも、「職人がさわると1ミクロンの違いがわかります」とか、「ふっと息をふきかけてデコボコを見てとります」とか、ものづくりに対して過剰な期待をかけるものが多いと思います。これは、日本のものづくりは素晴らしいというノスタルジーであって、実際は間違った方向へ人を誘導します。
なぜなら、ものづくりではもうすでにビジネスとしては付加価値があまり取れない状況だからです。「もの」はいつまでも必要ですが、そこから得られる利益が限られているのです。
例えば、現在のトレンドであるIT、ビッグデータ、人工知能などはものづくりではありませんし、しかも日本が決定的に弱い分野です。現に、日米大企業の時価総額を比較すると、最高のAppleが64兆円、Googleが55兆円、Microsoftは46兆円で、アメリカのトップクラスは50兆円から70兆円であるのに対して、日本は、ソニー、パナソニック、日立、東芝、富士通、NECなどの「ものづくり大手」を合計しても10兆円ぐらいです。今挙げたメリカのトップ企業は、日本製の部品や中国で組み立てたものを使っているだけで、自身ではものづくりをしていません。
この時価総額の違いが何を意味するかを考えると、例えば、MicrosoftあるいはGEがこれらの日本企業を10社まとめて買うことができ、かつ魅力的な部分だけを残して良いとこ取りにすることが、すぐにでもできるということです。明日の朝、PanasonicやSONYが買収されたという号外が出ても何の不思議もない。こういう状況なんです。
日本がこうなってしまったのは、過去に世界を席巻したというプライドがあり、次のデジタル化やグローバル化の大きな波に飛び乗る気がなかった、あるいは飛び乗る気になれなかったということが大きな理由と思います。ソフトウェアを開発するエンジニアの軽視も深刻な影響を及ぼしています。
しばらく前までPanasonicやSONYが大きく伸びたのは、台湾、中国、韓国などが発展途上だったという環境下で、これらの企業が「ものづくり」を得意としていたからであり、経営力が特に優れていた、というわけではないと考えています。だからこそ、高度成長期の圧倒的な成功以降、デジタル化、グローバル化への舵を切り損ねました。「デジタル化」は先に述べたソフトウェアエンジニアの軽視によって大きく差をつけられ、「グローバル化」は頻繁に聞く言葉でありながら、日本企業、日本人はかなり苦手です。例えば、日本での懇親会に外国人が数名いたら、彼らに話しかける日本人はあまりいないのではないでしょうか。仕事中も同じです。現地法人に外国人が多数いるのに日本人だけで日本語で話したり、本社とのメールを日本語でやり取りしたりしています。そういう状態では、国際的に優秀な人材から敬遠されるのも当たり前です。
今、日本がどういう状況にあるか少し見えてきたでしょうか。みなさんのお父さんやおじさんの「良かった時代」はもう完全に終わっています。
皆さんはこれから50年、どうやって生きていくのでしょうか。
強烈な問ですね。みなさんは答えられますか?
では、生き残るために必要な人材としての魅力とは何でしょうか。その根本は、問題を早く見つけ、実際に短時間で解決できる力、つまり「問題把握・解決力」と「スピード」です。その2つがあれば先手を取り、成果を上げることができます。問題を未然防止したり、問題が起きても深刻になる前に対処できたりします。これはグローバル企業でももちろん通用します。
これらの能力は、本来、誰でもかなりのレベルまで鍛えることができますが、実際に鍛えている人はあまり多くはありません。だからこそ、他の人との差別化になります。
その上で「質問して掘り下げる力」と「情報収集力」が重要です。問題解決と言うと、みんな難しいことを考えて、頭が良くないとできないと思ってしまいますが、それよりも適切な質問をして「一気に本質を見抜く洞察力」が鍵になります。
私の場合、挨拶を丁寧にした上で、事情をよく把握して自分の考えを持っている人であれば、その後の20、30分は質問し続けて全体の構造を把握します。前半でかなりの仮説を立て、後半はその理解が間違ってないかの確認をやります。
情報収集力については、普段から問題意識を持って関連分野の情報に接することで、引き出しを多く持っておきます。直接の仕事でなくても、世界の動きに触れておくことも大切です。今なら、パナマ文書から、イスラム国、アメリカ大統領選挙、中国の海洋進出など、国際情勢にもなるべく興味を持って知見を深めておくことが望ましいと思います。
情報収集に際しては、次のようなやり方をお勧めしています。
目的意識を持った情報収集を続けていけば、社会の動き、産業・自社・競合の動き、自分の業務などの全体像を把握でき、問題把握・解決力を高めることができます。
この能力は学生にも社会人にも非常に重要です。言葉の意味は誰でもわかりますが、実際にはなかなか実行されていないと思います。昼食をたぬきそばにするか、天ぷらそばにするかはそれなりに早く決められると思いますが、業務上の判断となると多くの場合、膨大な時間をかけていませんか。
できない理由を考えてみると、「情報を集めきらないと怖い」とか、「具体的にどうやっていいかわからない」とか、「そもそもそういう素早い行動に慣れてない」とか色々ありますが、これらは全部、即断即決、即実行しないための言い訳ではないでしょうか。
即断即決・即実行は、やろうと心がけることで誰でもだんだんできるようになるので、日々の生活の中から実践していきましょう。
ところが、この点についてはかなり簡単に強化することができます。用意するのは、A4の裏紙とペンだけです。
A4用紙を横置きにし、横書きで左上にタイトル(例えば「嫌だったこと」または「よかったこと」など)、右上に日付を書きます。本文は4~6行、各20~30字で書いていきます。
普通のメモと何が違うかと言えば、1ページを1分で書く、それを毎日10~20ページ書く、という点です。じっくり考えて書くのではなく、頭に浮かんだものをそのまま書き殴っていく感じです。
この時に注意するのは、頭の中でもやもやとしているものを逃げずに言葉に表すことです。1行に20~30字というのが思ったよりも長く、細かく具体的に説明することになります。必然的にもやもやに向き合うことになり、それをはっきりさせることで、頭の中を言語化する力がつきます。考えを整理してスッキリさせることができます。
このA4メモを1日10~20ページ、書き溜めていきます。1ページにかける時間は1分ですから、毎日10~20分しかかかりません。頭に浮かんだことを浮かんだ瞬間にさっと書き出していく感じです。
書いたメモは7~10のカテゴリーに分けてクリアフォルダに保存し、3ヶ月後、6ヶ月後にさっと見返します。そうすると、3ヶ月後には結構いいことを書いていたなという発見があり、6ヶ月後に見返した時は、かなり自分のものとして消化できていることに気づきます。それ以降はもうあまり見返すことに時間を使わず、新たにどんどんメモを書くことをお勧めしています。書くこと、つまり言語化に大きな意義があるからです。
ノートやルーズリーフではなく敢えてA4の裏紙なのは、一件一葉でファイリングできるので頭が整理される上、大量に書くことに対してもあまり抵抗感がなくなるからです。もちろん費用もかかりません。きれいに書こうという意識から解放されるという意味もあります。
後半のワークショップで扱ったテーマをいくつか載せておきますので、これらをタイトルの参考にして何ページかのメモを書いてみてください。
さらに、『ゼロ秒思考』のA4メモの進化形として、「アイデアメモ」を始めました。
A4用紙を4コマにして書いていきます。例えば「人とうまく進めること」に関してであれば、
という3ページを書きます。それぞれのページの中ではそれについての大事な4つの点についてA4メモに近い形で書きますので、A4メモの進化形と呼んでいるわけです。
1ページ目を3分で書き、隣の人と2分で説明し合います。次に2ページ目を3分で書いて、別の人と2分で説明しあいます。最後に3ページ目を3分で書いて、また別の人と2分で説明しあいます。
3人の違う人に説明することで、いろいろな刺激を受けます。自分が気になっていたことを問題なくできている人がいたり、自分は当然のようにやっていることがひっかかっている人がいたりですね。短時間に区切って必死で頭を働かせることで、思いもしなかった発見もあります。
こういったことを続けると、みなさんの問題把握・解決力は数ヶ月で劇的に上がり、みなさんの上司を越えてしまうこともあるでしょう。一番やりたいことができるようになり、様々な好循環が始まります。
さっき申し上げたように日本は沈没します。もうしています。でも、当然そこには生き残る企業があるし、生き残る人がいるという状況です。なので、さきほどの問題把握・解決力、情報収集力の強化により、「自分は何とか生き残ろう」という時代なんです。
情報収集も即断即決トレーニングも、英語の勉強も、中断してそれっきりでやめてしまうのが挫折であって、すぐに再開すれば、挫折ではありません。メリハリをつけて根気よくやりましょう。
これから社会に出る私達は、思っているよりもずっと厳しい環境にいるようです。この社会で生き残るためにも、必要な能力をしっかり身につけていきましょう。 (今回の記事は約2時間半の講演をまとめたものです。もっと詳しく知りたいという方は赤羽さんの著書をご覧ください。)
そこで、赤羽流の英語勉強法は、
必然性の持たせ方には、以下のような例があります。
・大好きな分野、関心の強い分野に取り組む…日本語の情報はすぐに尽きるので、翻訳されていない情報にも手を伸ばす。
・日本語になっていない情報を共有する仲間を作る
・進歩を仲間に宣言する
・一緒に勉強会をする
・外国人に日本について説明する。
・外国人に日本語を教える…「説明」するには英語が必要⇒必然性に繋がる
つまり、インプットとアウトプットの両方の必然性を作り、アウトプットの際には「話す」ことを重視する必要があるということですね。
このブートキャンプでは、(1)コミュニケーション (2)リーダーシップ/ファシリテーション (3)問題解決 (4)セルフコンフィデンス という最も重要な能力を赤羽さんから各回90分で集中的かつ効率的に学ぶことができます。興味のある方はぜひチェックしてみてください。