このコラムを始めたとき1年生だった私も、9月から最終学年になります。この留学コラムを通し、これまでイギリス留学・開発学に興味のある方からたくさんのお問い合わせを頂きました。コラムの感想を頂いたり個別に相談に乗ったりすることで、私が役に立てるのはとてもとても嬉しいことです。
しかし連絡するに至らなかった方の中にも、国際協力や国際的な社会問題に興味がありつつ「開発学」の実際のイメージがつかず留学先、大学や学部選びに困っている方がさらに多くいらっしゃるのではないかと思ったので、今回まとめてみることにしました。
もちろんめどがついたら各々の大学や機関の英語サイトを読み込んでください。
大学入学前の夏休みにバングラデシュのグラミン銀行に勉強をしに行きましたが、それ以外では途上国における実際の国際協力活動・ボランティア・旅行などについては経験のないことをお断りしておきます。あくまでここで書くのは欧米で確立した学問としての開発学で、大学や留学先の学部選びで迷っている方、将来国際機関で働きたい方など向けです。
新しい人と会うとき、また私がイギリスで勉強していることを知っている人でも、「開発学部です」と言うと「なにそれ?」となります。名前を知っていて興味があってもやはり「何やってるの?」ということで質問が多いのだと思います。
開発学では、途上国における貧困の原因や緩和策について、植民地支配の背景、貿易、教育、民族文化、開発に伴う環境問題、地球温暖化、援助政策やモデルの比較などさまざまな側面から学びます。「開発経済学」「開発環境学」「開発社会学」などアプローチする方面と必ず結びつけて考える学問です。
教授が実際にプロジェクトに関わっていて、メールをすると「今インドネシアにいてネットがありません」と自動返信されてしまうこともあれば、生徒に途上国での開発プログラムの参加を募集していることもあります。
ウィキペディアによると、開発学とは "国際的な経済格差(いわゆる南北問題)を是正するために、発展途上国の貧困解消の方法や、国家間の開発援助政策を研究する学問である。" とあります。
ここで「南北問題」とあるように、開発学はいわゆる「先進国」と「後進国」の関わりがすべてと言っても過言ではないかもしれません。様々なことが緻密に絡まりあって問題を生み出していることを感じます。物理的な搾取があるかどうかはともかく、歴史的・地理的な国際社会の政治経済がひずみを生んでいるのだと思います。
…と、抽象的な言葉をつらつらと使いましたが、開発学を勉強していると言いようのない無力感に襲われたり、世界で起こっていることや自分のしていることの善悪がわからなくなってきたりします。きっと勉強しながら色々なことを考えることになると思います。
私の大学の開発学部の一年生は、どの専攻でも全員一番最初の学期の必修で開発学入門をやるので、開発経済学、環境学、政治と人類学アプローチの基礎を一通り学ぶことができます。
交換留学生はどの学年の授業も取れることが多いようなので、まず広く浅く学ぶにはとてもおすすめです。開発環境学に興味があると思っていても、イメージのつかなかった開発経済学の面白さや人類学的アプローチの重要性に気付けたり、開発政治学で習ったことが後に環境法の授業の基礎知識になったりと、とても有意義な必修科目であったと思います。そしての上で論文では自分の興味のあった分野から課題を選ぶことが出来ました。
この大学の学部の好きなところは、三年間一貫して、得た知識やスキルを次に繋げることができること・また求められていることです。一年生で学んだ理論が後に使えるだけでなく、将来実際にリサーチが行えるようITルームでの必修科目があります。一年生で数量的・性質的なデータの扱い方について学びグループワークでレポートを書き、二年生ではより具体的にリサーチデザインの仕方や統計を学びアンケートなどを通して実践し、更に三年生のフィールドリサーチや卒業論文で生かせるのです。
私の調べた限り日本で開発学を専攻できる大学は数あるうちの8大学しかありません。そのうち学位レベルで開発学をおいているのは国際基督教大学と拓殖大学の2大学のみです。
こちらは最近見つけた開発学の世界大学ランキング(2016年度)(リンク先は開発学のものですが、科目ごとに世界ランクが調べられます)。とはいえランキングから大学を選ぶのは軽率で、各大学のサイトにいってみると分かりますが1位のハーバード大学や4位のオックスフォード大学を始め、大学院のみしか開発学部をおいていない大学も多いのです。
以下は、学部レベルで開発学が勉強できる主な大学です。
2位 サセックス大学 (イギリス)
7位 マンチェスター大学 (イギリス)
11位 ロンドン大学 アジアアフリカ研究学院(SOAS)(イギリス)
12位 イーストアングリア大学 (イギリス)
イギリスは開発学の発祥といわれるだけありランキングにも現れました。ちなみに日本の大学は、20位の東京大学大学院以外は100位までのランクには入っていません。
そしてこちらはイギリスにある開発学関連の学位のある大学リスト。学費を比べたり、国や興味のある科目を広げて調べたりすることができ便利です。
ケンブリッジ大学(6位)
日本の大学や留学エージェントとの協定が多いためか、開発学に興味のある日本人の中ではサセックス大学とイーストアングリア大学が有名で、どちらが良いんだろう?と迷う方から連絡を頂くことが多いです。かく言う私もその一人だったのですが、私は開発環境学により興味があったので、世界ランクでは劣ることは承知でしたが唯一その学部を持つイーストアングリア大学を選びました。勿論イーストアングリア大学でしか勉強していないので私が比較することはできませんが、明確な理由があったのでこの選択がベストだったと思っています。
両大学とも、Development work experienceといって、二年生と三年生の間の夏休みに途上国を始め海外でインターンシップをすることで単位がもらえる制度があります。サセックス大学では最低6週間、イーストアングリア大学では最低8週間です。イーストアングリア大学では三年生の必修科目は春学期に設定されているので、秋学期の間もインターンシップを続けることも可能で、卒業が遅れる心配はありません。
サセックス大学:http://www.sussex.ac.uk/development/pgstudy/postgraduate-prospectus
イーストアングリア大学:https://www.uea.ac.uk/international-development/postgraduate-taught-degrees
わたしはコースで選びましたが、コース名だけでは分からないことも多いので、選べる科目(Module)なども吟味して決めるといいと思います。勿論マンチェスター大学やSOASなど他の候補大学も自分で見てみて、表を作ってみるのをおすすめします。イギリスの大学への出願手続きは各大学にではなくUCAS経由で出願します。私は一校しか出しませんでしたが、いくつか併願することも可能です。
すべて、イーストアングリア大学・私個人の場合ですので悪しからず。ちなみにイギリスの大学は通常三年間で卒業となります。
1年間で120単位×3年間で、1科目が大学によって15単位だったり20単位だったりします。
イーストアングリアは1科目20単位ですので、1年間に6科目しかありません。深く学び、自習時間もたくさんとるのがイギリスの大学の特徴とも言えます。
1年生
先述したように、まずは開発学入門と、データの見方の勉強をします。前期で開発学におけるアプローチを広く浅く勉強し、後期から学年が上がるにつれて自分の興味のある分野に絞っていきます。1年生後期では4〜5つの選択肢から3つ選びます。
2年生
引き続きしぼった科目(環境学)やデータ分析の授業のほか、開発教育学や他学部からの授業も入ってきて選択の幅が広がります。他学部からの授業は一つまでと決まっていましたが書類を提出し、環境科学部から気候変動と環境法の授業二つをとることも出来ました。
3年生
開発学部の授業は夏休みの間からスタートします。フィールドワーク、2~5か月のインターンシップ、卒業論文の準備がありました。学期が始まったら各学期一科目ずつ通常のレクチャーと卒論執筆というのが私の予定です。「資源開発と環境保全」(環境学科の必修)と「戦争と人道的危機」を取りました。卒業論文は、東京のフードバンクでのインターン経験をもとに先進国での貧困と食糧安全保障について書こうと思っています。
これまでの授業で一番大変でかつ一番充実していたのはフィールドワークです。10日間スコットランドに滞在し個別にテーマを設定して街に繰り出し、一週間データ集めに走り、最終日に15分間のプレゼンテーションというものでした。
写真は、2日間の初期リサーチを終え、自分のリサーチテーマやデータの集計方法を発表した海岸です。 初夏のスコットランドは夜11時まで明るく、夕飯後も毎日活動していました。最終日は夜明けまでかかってスライドを用意し、ホステル内でプレゼンを行いました。その後2週間以内に6千語のレポート提出。卒業論文が一万語ですから、このハードさをわかって頂けるでしょうか。
1年生の時から、この科目が環境学科の必須であることが不安で仕方ありませんでしたが、無事終えることが出来ました。自分の頭と足をフル活用し、入学前の自分とは明らかに成長したことを実感でき、得るものの大きかった一か月でした。