高校生の頃から「社会の規範から外れるのは悪いこと」という日本的な考え方に疑問を抱き、ドイツに留学。留学を通して、必ずしも日本的なあたりまえが全てではないことを体感した中西勇介さん。
現在は会社員として働く傍ら、週末にはイベントをひとりで企画・運営している。「留学がなければ今のように自ら人を巻き込んで主体的に動くことはなかった。」と彼は話してくれたが、中西さんをそこまでを大きく変えた留学とは一体どのようなものだったのか・・・?
ーー留学に興味を持ったきっかけを教えてください。
昔から日本に対する居心地の悪さを感じていて、海外に出ていろんな世界を経験したいという思いが強かったというのがきっかけです。
日本で暮らしていて、「何でこれが常識なの?」と感じることも多かったですし、社会の規範から外れるのは悪いことだという日本的な考えも好きじゃなかったんですよ。
たとえば、私は小さいころに忘れ物をよくしていたのですが、母親に「周りの子はできているのに、忘れ物なんかして恥ずかしいね」とよく言われていました。確かに忘れ物はしない方がいいと思いますが、なんで周りと比べられないとだめなんだろう?と子供ながらに考えていました。
私の場合はそんな日本的な価値観に馴染めている気がしなかったので、大学に入ったら必ず留学に行きたいとは思っていました。
ーー神戸大学の経営学部に進学されたあと、留学への夢はすぐに叶ったのでしょうか?
かなり時間がかかりました。というのも、入学直後に力試しのつもりで受けたTOEICで450点しか取れなくて。笑
正直に言うと、これで本当に留学に行けるのかな?と、いきなり心が折れそうにもなりました。その後、1年生の夏に初めて留学説明会に行ったのですが、そこで私の大学生活を変えるきっかけとなる先生に出会ったんですよ。
その当時、神戸大学では留学がそこまで盛んではなかったのですが、その先生は「学生は若いうちからもっと海外に行くべきだ」という思いを持っておられる方でした。その先生がちょうど、英語でプレゼンをしたり、英語でビジネスを考えたりという、留学準備をする経営学部生のための留学プログラムを立ち上げようとしていたので、私もそこに参加することにしたんです。
なかなか英語が伸びずに「これで本当に留学に行けるのですか?」と先生に聞くことも多々あったのですが、先生は「それは努力次第だ。ただ、そのために必要なサポートはしてやる」と言ってくれ、それがまた励みにもなりました。
結局その留学プログラムには2年生の時にお世話になり、夏休みにドイツの大学への願書を出したところ、その2か月後の10月に留学が本決まりになったという流れです。留学が決まったときは本当に驚きましたね。もともとは英語が得意ではなかった自分でも、努力を続ければ留学の夢が叶うんだと分かりました。
ーー留学先で大変だったことなどはありますか?
たくさんありますが、特に大変だったのはコミュニケーションが取れなかったことです。私は3年生の9月から4年生の5月まで留学していたのですが、最初の1ヵ月は本当に英語ができなかったんですよね。
どこの国からの留学生も英語が話せる前提で経営を勉強しに来ていたので、コミュニケーションを取るのには何度も苦労しました。
アジア、南米、アメリカなどから来ている他の留学生と仲がよかったのですが、みんな当たり前のようにきれいな英語を話していましたね。何とか喋ろうと思っても、喋るのが怖かったんですよね。というのも、頑張って喋りかけても、返ってくる英語がまた理解できなかったので。笑
それでも一緒にお酒を飲んだり、とりあえず会話の輪に入っていることで少しずつ英語も上達し、それと同時に自信もついたように思います。
ーー留学を経て、自分の中で何か変わったことはありますか?
大きく二つあり、一つ目は自分が異質ではないと気付いたことです。常に他の国から来ている留学生に囲まれて過ごしていたので、少しぐらい自分が周りと違ってもそれが当たり前だと思うようになりました。もちろん、日本で当たり前だと思われている価値観が必ず正しいという認識もなくなりましたね。「自分は自分のポジションを貫けばいいんだ、それで受け入れられる世界もあるんだ。」そう思えるようになったのは私にとって大きな収穫でした。
二つ目は、人間って根本は同じだな、と気付いたことです。
外国人と会話するのを日本では「異文化交流」という言葉で表現しますが、一緒にご飯を食べてお酒を飲めば、国籍など関係のない、人間として通じるものがあります。留学後半には言葉の壁もなくなっていたということもあり、外国人だから・・・という概念は完全に無くなっていましたね。
ーー4年生の5月に帰国された時、一般的に就職活動は終わりかけの頃だったと思いますが、それは問題なかったのでしょうか?
私は夏採用で運よく内定をもらえたので、結果的には留年することなく卒業もできました。ただ、留学前から夏採用で就職活動をしようと考えていたわけではなく、帰国してとりあえず就活してみたら内定をもらえたので入社を決めました。ですので、もちろん就活のことを気に掛けるのは大事ですが、個人的には留学前から心配しすぎなくてもいいと思います。
ーーアパレル系の通販会社を選んだのは、どういう基準からなのでしょうか?
ワークライフバランスがしっかりしていることと、女性の幸せのために働ける会社である、という2点からです。
日本では「学生のうちに遊んでおけよ」と社会人の人から言われることもあるじゃないですか?でもそれはおかしいと私は思っていたんですよね。仕事はしっかりやる代わりに2ヶ月間の休みをとって海外旅行に行くのはだめなのか?と。ドイツでワークライフバランスの取れた会社をたくさん見てきたのも大きかったと思います。
また、私は留学中にポットラックパーティ(参加者が自分で食べ物を持ち寄る形式のパーティー)を頻繁に開催していたのですが、そこで一番喜んでくれていたのがいつも女性だったんですよね。そうやって周りの人が喜んでくれることに私も喜びを感じていたこともあり、自然と女性の幸せのためにという思いが強くなりました。
なので、実は私、服にはそんなに興味がありません(笑)。それでも「女性のための幸せ」という根本的な価値観は通じるものがあるので、今の会社に決めました。
ーー1年半働いて、何か心境の変化はありますか?
ありますね。様々なきっかけがあり、入社してから3か月後に「本当に自分がやりたかったのはこれなのか?」と自分に問い直す時期があったんですよ。
また、ちょうどその頃に野心溢れる人と話をする機会にも恵まれて、「会社で働くのもいいけれど、自分でも働くということを別の形で経験したい」と思い始めました。もともとそういった思いを持ってはいたのですが、会社というシステムの中で働いていくうちに、その気持ちを忘れかけていたんです。
留学先で経験があったこともあり、その時にやろう、やりたいと思ったのがポットラックでした。始めは週末にとにかくいろんなイベントに参加して、いろんな人と繋がるように動き回っていました。そこで知り合った、ポットラックに興味のありそうな人に声を掛け、少しずつ輪を広げてきたんです。
ーー会社員として働くことと、ポットラックをご自身で運営することに違いはありますか?
違うことは非常に多いです。組織の中で働く会社員とは違い、自分で全て運営することから学ぶものは非常に大きいですが、もちろん難しいこともあります。
たとえば、自分がオーナーである以上、自分がどれだけ魅力的に見えるかによって集まる人の数も変わるんですよね。ですので、「どうやったら自分のところに人が集まってきてくれるのだろう?どうやったら信頼できる人として認知してもらえるのだろう?」というのは常に考えるようになりました。
また、来ていただくからには価値を提供しないといけないので、運営することに対する責任感も芽生えました。会社員に責任感がないという意味ではないですが、大きな組織で働く以上、会社全体のことを常に考えて仕事するのは簡単ではないと思うんですよ。
それに対して、自分ひとりでポットラックを運営しているとサービス全体のことを常に考える必要があり、そしてそれを自分で全て行うので、背負うものの大きさは変わると思います。
ーー学生のころの留学経験は、いまの仕事や活動に活きていると思いますか?
もちろんポットラックには留学の経験が活きています。もともと留学中に自分の寮で開催したホームパーティから始まったものなので。
また、イベント運営という部分にも間違いなく活きています。私は積極的に人に声を掛けたり、人を巻き込んで何かを主催することを数多くしてきたタイプではないのですが、ドイツで開催したイベントを通して自信がついたからこそ、今は自分が主体となって活動できていると思います。
また、留学の経験によって、自分の考え方や行動そのものにも自信を持てるようになったと思います。実は私、入社当時は日本の古い価値観に固執した会社の人たちに全く馴染めなかったんですよね。彼らは自分が日本で数十年生きてきた経験でのみ人生を語るため、留学を経験して世の中に多様な考え方をもった人がいることを知っている私としては違和感がありました。もし留学を体験していなかったら、自分の考え方は一方的に間違っていると思わされていたかもしれません。自分の考えを素直に表明して受け入れてくれる世界があると分かったからこそ、どんな状況でも強く生きれるようになったのではないかと思います。
アメリカの大学に交換留学中の理系大学院生です! 「一人でも多くの方に留学を身近に感じてもらい、挑戦への一歩を踏み出して欲しい」という思いを込めて、留学コラムを書かせて頂いております。 また個人でも留学ブログを書いておりますので、宜しければそちらもご覧ください!