秋晴れの空といちょうの黄色がきらきらと胸に染みる今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか、Misatoです(^-^)!
さて、シリア難民特集第三弾は、シリア難民支援NGO「サダーカ」のメンバーで、UNHCR難民映画祭出展作品『目を閉じればいつもそこに~故郷・私が愛したシリア』の監督を務めた、藤井沙織さんへの独占インタビューをお送りします。
この映画に描き出されたものは、シリアの人々の日常、故郷への想い、そして、家族への想い。
『この映画は、大切な人を想いながら見て欲しい。』
想像してみてください。あなたがもし、大切な人を戦争で失うとしたら、どうでしょうか。
さぁ、藤井監督が映画に込めた想い、そしてこの映画に辿り着くまでの生き様を、たっぷりおとどけします!
ーー「ヨルダンに行って、シリア難民の方々の映画を撮ろう!」って、普通に生活していたらなかなか思いつかないですよね。ここに行き着くまで、どんな経緯があったかぜひとも教えてください!
私は広島出身なんですけど、小学校の義務教育で週に1回道徳の時間があって、そこで平和学習をやることが多かったんです。原爆ドームの近くに住んでいたこともあって、小さい時から“戦争”は身近な存在でした。で、私、実は大学中退して、バックパッカーとして海外を回っていたんだけど…
ーーへえ!でも大学をやめるって、すごい大きな決意ですよね。
そうだね(笑)。もともとすごく東京に出たくって東京の大学に進学して、大学の学費も全部自分で出してたんだけど、でも私大学が嫌いというか苦手だったんですよね。一年の前期は通ったけど、後期は全く行かなくて、引きこもりみたいな感じになっちゃったり。それでも3年の6月まで続けたんですけど、結局もったいないなと思って中退しました。私はもともと海外に出たいなって思っていたので、そこからドイツにいた友人と合流してバックパックで旅して、そしたら「世界は広いなぁ~。」って思って(笑)。なんだか自分の悩みが小さく見えちゃいました。
そこからは働きながらお金を貯めては海外に渡航していました。それで私、チベットに行ったことがあるんですけど、その時のチベットって現地の案内人がいないと外国人だけじゃまわれない時だったんですよね。案内人の方は同い年くらいの女性だったんですけど、ある日山の中に連れて行ってくれたんです。街の中では、中国当局の人たちの目があるので思ったことを話せないからって。もっと私たちのことを日本人に知ってほしい、って一生懸命話してくれました。「日本人の人に知ってほしい」っていう言葉を私はそのまま受け取って、「じゃあテレビだ!」って思いついたんですよね(笑)。
それからドキュメンタリーの制作会社に一年くらい勤めていました。配属された番組は戦争を今の世代に伝えるという趣旨のもので、その番組作成にあたって日本、韓国、ロシアの戦争体験者100人のインタビューをとったんです。話してくれる内容は本当にリアルで、彼らは涙ながらに話してくれるんだけど、多くの人に届けられなかったんだよね。せっかく話してくれたのに何にもならなかった人々がいるんだって思うとすごく心残りで、他の理由も重なってその会社は結局1年くらいでやめることにしました。ただ、そこで私が思ったのは、戦争体験者のお話を映像にして残していくことが日本の平和につながるんじゃないのかってこと。誰だって、大切な人を戦争で失いたくないでしょう。戦争体験を映像にすることで、大切な人を失ってしまった当時の人々の苦しみに思いを馳せることが出来るんじゃないかと思うんです。そして、それがもう戦争を繰り返したくないっていう今の世界の平和につながっていくんじゃないかと。
で、自分で動き出そうと思ったんだけど、日本の戦争の話って70年前だと思うと、なんだか遠くて、自分の身に起こりうることなんだって感じられない。
ーー確かに、教科書で歴史として習うから余計遠く感じられる気がしますね。
そうなの、教科書の白黒の写真を見ていたら、ずっと昔のことのように思えてしまう。戦争体験者たちの70年前の話を、自分ごととして聞くことができるのかなって考えたとき、 “今”まさにこの世界で起きている戦争で苦しんでいる話の方が、自分ごととして捉えられるんじゃないかって考えた。
ーーなるほど、70年前の日本の話より、今のシリアの話のほうが確かに現実のこととして捉えることができそうですね。
自分のなかで、最終的にはやっぱり日本の戦争体験者の話を伝えたいっていう思いはあるの。でもまずは、今まさに起きていることに向き合って、より戦争を自分ごととして捉えられるようになりたい。そしてそのあと日本の戦争体験者たちに焦点を当てた映像を作って、日本の人たちに伝えたい。
ーーではこの映画はまだ藤井さんとしては通過点なんですね。
そうだね。
本当はね、初めてヨルダンに行ったときは、どんなにシリアの人たちが悲惨な状況に置かれていて、どんなに大変な思いをしているか撮りたいって思ってたの。でも何回か日本とヨルダンを行ったり来たりしているうちに、シリアに行ったことのある人たちにたくさん会ったのね。その人たちが話してくれるシリアっていうのがすごく美しくて。しかもシリアの人たち自身が、今の悲惨な状況だけじゃなくて、シリアが昔どんなに美しい国だったか、それを知ってほしいって、私に言ってくれたんです。
また、シリア人の人たちのあったかさとか、初めて会った人でも家族のように迎えてくれて、また来てねって心から言ってくれるところに感動して。それって日本が発展を遂げる過程でどこかに忘れてきてしまったものだと思うから、それを映画にして伝えたいなって思ったんです。シリアって聞くと、紛争のことしか皆さん頭に浮かばないかもしれません。私もそうでした。でもこの映画では、シリアの人々の暖かさ、笑顔、家族への思い、そして美しかった故郷・シリアのすばらしさを伝えたいです。そこが見所かな。
ーーなるほど。私もホームステイさせてもらって、びっくりしましたけど、シリアの方々って本当に裏表がなくてあったかいですよね。藤井さんは私よりもっとそのあたり詳しいと思いますが、シリア人の方々のあたたかさを感じたエピソードがあればぜひ教えてください!
例えば、自分達が難民で何もない状況にもかかわらず、家庭訪問したら絶対にお茶を出してくれるんだよね。うちにあるデザートとか、お土産あるから持って帰れって言われたりとか、いやいやもらえないよそんなのって思っちゃうんですけど(笑)。いまお茶も用意できないからごめんね、ちょっと待ってねってジュースを子どもに買ってこさせたり、とにかく、自分達がどんなにものがない状況でも、お客さんが来たら全力でもてなす。
そして、2回目に会いに行ったときなんか本当に家族みたいに迎えてくれて。私が初めて現地のライダさんにあったときは1時間ほどしか滞在できなかったんだけど、2回目に会いに行ったとき、それはもう本当にものすごく再会を喜んでくれた。帰るときはぎゅーって抱きしめてくれて、『いつでも来なさい、愛してくれるわ。』って言ってくれるのが、上手く言葉にできないけど、なんだか本当に、あったかいよね。
他にも、初めてヨルダンに行った時、支援団体サダーカが病院で妊産婦支援をしていて、生まれたばかりのシリア人の赤ちゃんを撮りにいったの。そこで出会ったおばあちゃんが初対面だったんだけど、いきなり抱きしめてくれて、「天使みたいな笑顔ね」って(笑)。その病院には小さな女の子も入院していて、その子は爆撃でおでこをけがしていたんだけど、そのお父さんが、「あの子はあなたのことが好きだから、会いにきただけで元気いっぱいになるのよ。」って言ってくれたんです。いつもほかの人を喜ばせようとしていて、しかもそれが嘘じゃないというか。本当に素朴な人たちなんです。
いまは、シリアの人たちと関わりを持たせてもらって、かけがえの無いつながりができたので、シリアのことを最後まで追いかけたいなと思っています。今回は、シリア人の故郷への思いをメインに撮ったから、次回はシリア人の現状についてもっと撮りたいかな。今ヨーロッパに逃げている人、ヨルダンに逃げている人、シリアに未だに残っている人の思いとか、ひとりでも多くの日本人に知ってもらえたらなと思います。
でもやっぱり、私は戦争体験者の方のお話も撮りたいなって思っています。できれば、シリアで現在行われている戦争と、日本の戦争体験者たちのお話を繋げることがしたいなあって考えています。例えば、シリアの方たちの話を撮ってきたのを日本の体験者に見てもらって、自分の昔のことと繋げてお話いただいたりできたらなぁって。
ーーなるほど!それってすごくアピーリングですね。戦争を体験された方々が、今行われている戦争についてお話されるとしたら、その言葉の重みって全然違うと思います。
いま、日本は平和じゃないですか。私もそうだけど、やっぱり平和ボケしてると思うんです。戦争とか、テロとかって、遠い国のことって考えちゃう。それをどうやって身近に感じてもらって考えてもらえるか。日本人に一番近い日本人のことと、中東のシリアのことと、繋げて考えることができたらなぁって思います。
シリアに関して言えば、まずは知ってほしい。シリアの悲惨な状況もそうだし、そして今この瞬間も、自分と同じように、彼らが日々を過ごしているということ。毎日買い物して、家族で食事して、一日を過ごしている、戦争だけじゃなくてそこには日常があるっていうのを知ってほしい。
そしてこの映画は、『大切な人を思いながら見て欲しい』って思っていて、こういう戦争がもし自分の身に起こって、大切な人を失うことがあったら自分はどう思うのか、それを考えながら見て欲しいんです。大切な人がそばにいてくれること、シリアでは今、それが当たり前じゃないことが多くあります。今当たり前だと思って生きている毎日のなんでもない日常、それが当たり前じゃないことを知って、一日一日を生きていってほしい。
ーーありがとうございます。また、特に今の日本の若い人に対してメッセージがあればよろしくお願いいたします。
そうですね、まず一つ目は、自分の気持ちに嘘をつかないってことですかね。私、今までは、困難にぶちあたると逃げてしまうことがあって、だからこうやって物事を最後までやったことが、実は初めてなんですよね。最後までものごとをやり通したら、やり遂げたものが自分の看板というか、アイデンティティになっていく。若い人にもぜひ、自分の気持ちに嘘をつかず、やりたいことを最後までやりきって欲しい。
二つ目が、人と人との繋がりを大切にするということです。当たり前のことだけど、人と人との繋がりって、人生において本当にかけがえの無いものだと思います。私自身は、シリアを通して大事な繋がりができて、そして様々な状況で、この人と人との繋がりに物理的にも精神的にも支えられながら生きているんだなって思うんです。私はこれからもこの繋がり大事にして生きていきたいと思うし、今の若い人たちもそうであってほしい。
そして最後に、“地球人”として生きるということ。日本はまだまだ、社会が閉鎖されている側面があると思う。映画にも出ているアブダッラーが日本に来たいって話をしてくれたんだけど、でもシリア人が日本で難民申請するのってめちゃくちゃ大変なのね。それに、シリア人が今の日本にきて馴染んでいけるかどうかっていう問題もある。例えば映画にもでてくるジャワードはいま日本生活2年目なんだけど、最初日本で生活して行くのがすごく大変で、仕事も始めたりやめたりってのが続いて、なかなかうまく社会に馴染めずにいました。法的にもそうだけど日本人には外国人を受け入れるっていう考えがあまりにも足りていないように思えるの。そもそも、“外人”っていうじゃん。
ーーたしかに…外の人ってすごい冷たい表現ですよね。
そうなの。“外人”じゃなくって、もっと一人ひとりを“地球人”として捉えて欲しい。
ーー確かに。“外人”って言ったってそんなに大きな違いってないですよね、目も鼻も同じところについてますし。
そうだよね(笑)。
(インタビュー 終)
同じ人間ですから、異なる部分ではなくて、共通している部分の方がたくさんあるに決まっています。だから、“外人”じゃなくて“地球人”として捉える。そんな視点が、もっとこの世界を平和に、誰にとっても生きやすくするのではないでしょうか。
藤井監督がヨルダンで見た世界とシリアの人々の想いが詰まった作品、『目を閉じればいつもそこに~故郷・私が愛したシリア』は、以下のスケジュールにて上映されます。ぜひ、あなたの大切な人と一緒に、劇場に足を運んでみてはどうでしょうか。
イギリスのダラム大学で平和構築の修士課程修了後、パレスチナで活動するNGOでインターンをしています。”フツーな私が国連職員になるために。ギャップイヤー編”連載中。 Twitter@Misato04943248<⁄a>