南場智子氏:皆さん、こんにちは。今、デザインってむちゃくちゃ大事なんですね。DeNAの将来はおそらくデザインにあると思ってます。それがなぜなのかを話すために今日はやってまいりました。
UI CrunchというのはDeNAだけのイベントではないのですが、私はDeNAの創業者で、今は会長をしているという立場です。自分がDeNAのことに全力を投入しているので、DeNAという文脈で、なぜUI/UXデザインが大事なのかという話をさせていただきたいなと思います。
その前に、DeNAって何をやってる会社ですか? DMMとどう違うんですか? DeNAって色々とわかりにくい会社ですよね。なぜかというと、私たちは自分たちが挑戦する領域を限定しないからです。それをすごく大事なこととして捉えています。
現状がどうなっているかというと、インターネットを少しはみ出したりしつつ、主な事業領域だけで、ゲーム、エンタメ、自動車、ライフスタイル、ヘルスケア、eコマースとこんなに沢山あります。
うちの会社が新規事業を始めるときは、3つの質問がYESだったらやろうという考えがあり、結果としてバラバラになっていると思うんですけど、その3つの質問を紹介します。
1.成功したときに規模の大きな事業になるか?
2.DeNAが勝てる市場なのか?
3.やりたくてたまらないと、目が輝いてる社員がいるか?
この3つのYESに従って、事業をつくってきたのが今の姿です。今の収益の多くを占めているのが、ゲームですね。ゲームの領域で話題になってるのは、任天堂との資本提携。先般、岩田社長がお亡くなりになって、私たちも突然の訃報にとても驚き、本当に慎んで哀悼の意を表しています。先週、新しい社長が決まり、岩田さんの遺志を、新しい体制で実現していこうというところでしょう。
DeNAと任天堂は業務提携だけではなく、資本提携を行ってるんですね。資本提携というのはお互いに株を持ち合って、ひとつの事業だけの取り組みではなく、親戚になろうよということですね。
インターネットで、常にユーザーとつながってるサービスを作ってきたという我々のスキルと、任天堂のゲームパッケージ、あるいはゲームプラットフォームだったり、デバイスを作り込んで出すという強み、その2つを持ち寄って任天堂のこれまでのゲームのアセット、よく私たちはIPという言い方をします。そういったキャラクターを用いて、世界に一緒に出て行こうよと、手に手を携えようということで決まったものであります。
他には例えばエンタメの領域でどんなことをしてるかというと、マンガボックス。無料で人気漫画家の描きおろしが読めるので、私もよく読んでます。インディーズの方の作品も結構読まれてますから、もしこの中で漫画家として将来考えてる人がいたら、ここでちょっと腕試しをして欲しいなんて思います。
コンテンツ系でいうと、買収して仲間に入れることもあるんですね。例えば、iemo、MERY、Find Travelなどは独立した会社で、それぞれのカテゴリーでNo.1でした。そこに声をかけて、独立した一国一城の主としてやるのもいいんだけど、我々に参加して、一緒に更に大きなビジョンを描いてみないかということで。
DeNA Palletというプロジェクト名で呼んでいますけど、様々な生活シーンにおけるコンテンツキュレーションサービスをプラットフォームにのせて、大きな展開をしていこうと、みんなで力を合わせているところです。
なぜ、自分たちだけで上場できた会社がこうやって参加してくれるのか。これらの会社、本当にすごいですね。上場なんて朝飯前で、時代のヒーローですね。じゃあなんでDeNAに参加してくれるのか。ひとつは、1つのコンテンツに縛られるよりも大きな夢を見たということで、もうひとつは、面倒くさいことをやりたくないと。ペーパーワークとか、契約とか、採用とか。そういうことを誰かがやってくれるんだったら、自分たちはサービスに没入したい。ユーザーを喜ばせることに没入したいということですね。
社長というポジションより、ユーザーだったり、サービスだったりを重視していたんですね。彼らが好きなことは、サービスや事業を磨きこんでユーザーを楽しませることなので、それ以外の法務的なこととか、手続き的なことをしっかりと面倒を見る機能が整っている企業に参加して、一緒にでっかい夢見ようぜということです。
例えば、SEOが得意な人はすべてのサービスのSEOを見てます。ソーシャルマーケティングが得意な人は全てのサービスのソーシャルマーケティングを見ています。私はCAFY担当、私はiemo担当、私はFin Travel担当ではなく、みんなが集まって、一番得意なことを全てのキュレーションサービスに対してやっていこうと。しかもシステムも効率的に作ってやろうぜってことですね。
そういう粋のいいスタートアップに参加してもらって、そしてまたチームDeNAが違う血も入れて多様な人材で成長していくことを重視しています。
次はSHOWROOMです。SHOWROOMはライブ動画ストリーミングプラットフォームなんですけど、すごい楽しいです。アイドルが多いんですけど、生配信をするんですね。私はだいたい土曜日の朝飽きると眠いので、目がはっきり覚めるまで何をするかというと、SHOWROOMを見てますね。
鉛筆で絵を描く魔術師みたいな人、いるじゃないですか。作品は見たことあるんだけど、作ってる・描いてるプロセスは見たことなかったんですね。そうしたらSHOWROOMで延々と描いてるところを配信してるのよ。ものすごく見入っちゃって、感動しちゃって、ギフティングっていう応援、たとえば小さいだるま投げたり、中くらいの大きさのだるま投げたり、大きいだるま投げたり。それによって応援する金額が少し増えてくんですね。大きいものだと東京タワー。東京タワーを投げるとお金かなりかかるんです。
例えば私が南場さんで、SHOWROOMで配信しているアイドルがふみこちゃんとすると、ふみこちゃんが「南場さん無理しないで! 東京タワーとかいいから」とか言ってくれるんですね。もうたまんないですよね、これ(笑)。本当にたまんない。あと「ふみこちゃん、前髪切ったの?」なんて聞くと「南場さん気づいてくれたの?」と言ってくれる。本当にたまんないですね。
あとはまた新しくサービスを始めました。Anyca(エニカ)という個人間カーシェアのサービスです。これはレンタカーよりよっぽど安いから、ぜひ登録して借りてください(笑)。私は絶対こんなの流行らないと思ったんですね。それで、このアイデアを全力で潰しに行ったんですけど、玉砕して彼らが勝ってサービスを市場に投入したんですけど、結構うまくいってるんですね。悔しいですけど、会社としては良かったね(笑)。
更にロボットタクシー、自動運転ですよ? すごくないですか? 最近は運転席に人を座らせなくても走るんですね。運転席に人を座らせるか、それとも座らせないかっていうのは法律の問題だけですね。基本的に座っていてもハンドルにさわりませんから。
私は行かなかったんですけど、うちの守安社長は名古屋までちゃんと試乗しに行きました。それで、日本においてこの分野で最も進んだZMPっていう会社と合弁会社を作って、ロボットタクシーを走らせるんですね。2020年、東京オリンピックには実現したいなあ。 これも私、実を言うと全力で反対したんですね。でもこれやって良かったね。
次が私が肝いりで始めたMYCODE(マイコード)という遺伝子検査サービスですね。20才以上の人は全員受けられますので、今日うちに帰ったらMYCODE、見てください。自分の遺伝子から、遺伝的にかかりやすい病気がわかるサービスです。
病気になる前にケアするような時代を作りたいということで、東大の医科研と組んで、みんなの遺伝子を分析するラボもDeNAが自ら作って。そしてDNAって、ATGCの文字列の配列なんですね。それを読み込んだら、乳がんになりやすいとか、がんになりやすいとか、そういったことに対してメッセージを出すロジックが必要なんですね。そのロジックも東大医科研と一緒に作って、日本人に最適な、アジア人に最適なサービスを作りました。ぜひ使ってみてください。
ロボットタクシーとか遺伝子検査とか、インターネットからはみ出ちゃってるなということで、何をしようとしてるかというと、我々がインターネットで培ってきたスキルを用いて、新しい産業にも入っていこうと。
何でもありってどういうこと? 何でもいいんですか? でも、1つだけ共通点があります。私たちがものすごく固執してること、それがDelightです。どういう意味かって言いますと、ニュアンスとしては、ちょっと驚きを持って、なんとなくポジティブな驚きを持った喜びを感じてもらうようにすることを、Delightするって言います。
やっぱり世界中の人を我々のサービスでDelightしたいよね。その気持ちが色んな事業に携わっている全員に共通して、一番強いものとなっています。これがない人は我が社にいてはいけないというルールがあるくらい、DeNAはこのDelightにこだわっています。しかし、Delightの仕方は何でもいいよと。ヘルスケア、オートモーティブ、ライフスタイル、eコマース、ゲーム、エンタメ。色んな意味で驚きを持った喜びを、ポジティブに、嬉しく喜ばす。そういうことを目指している集団であり続けたい。これがDeNAのアイデンティティです。
さて、ここからが本題。なぜデザインか、なぜクリエイティブなのかという話に入っていこうと思います。大きなトレンドとして、新しい事業やサービスの作り方がすごく変わってきたと思うことが3つあるんですね。この3つを今日みんなと共有したいなと思います。
まず新しいサービスの作り方って普通はこうですよね。企画をして、その企画が良くできてたら経営会議に持ってきて、経営会議で吟味する。そこで色んなことを議論する、例えばこれでいったいどれくらいの事業になるの、規模はどれくらいなの、誰がやるの、そんなリソースあるの、競合がやってるこういうサービスと一緒じゃん、とか、色んなダメ出しをくらうわけですよ。
我が社の経営会議は結構きついよね。ロジカルに詰められる。何も作らないやつが偉そうにしてる。これ、よくない会社ですね。でもそういう経営会議ってやっぱりあるんだよね。その経営会議が終わって、よしやろうとなって開発が始まると、もう1回経営会議に持って行って、これいいんじゃないと言われてリリースされると。これが今までの古いトラディショナルなフローだったんです。
これで大失敗を私は何度もやらかしました。例えばあるサービスの提案を若手のチームがしてきました。それを私が見て「このサービスだったらうちのモバオクでいいじゃん」と言います。モバオクには競り上げ方式じゃない、定価で落札する一発落札の機能があるんですね。「モバオクの中でできることを、どうして新規事業でやるの?」という話をして、却下してしまう。
それから数ヶ月たったら別の会社がまったく同じ概念のサービスをリリースして、むちゃくちゃ伸び始めたということがあります。その時に、あのチームのあの若手のメンバーには私が見えていないものが見えていたんだ、と思ったんですね。50を過ぎた私がダメ出ししてて、こうなるんだと。会社の将来を狭めてしまったなという反省ですね。
それで大胆に「やめよう、経営会議」ということですね。勝手に作れと。考えながら作れということです。考えながら作って、考えながら出せ。アプリであればApp Storeに出してしまえと。当たり前のことですが我が社は上場企業ですから、違法なことや公序良俗に反することはやっちゃだめということで、簡単な法務のチェックが入ります。法務部はこれは成功するとか、失敗するとかここでは言っちゃダメ。法律的に大丈夫、コンプライアンス的に大丈夫、それだけです。
出してから経営会議に持ってきてよと。何を持ってくるのかというと、サービスではなく数字を持ってきてと。では、私たちは何を見るのか、リピート率です。1回使った人がどれだけ使い続けてくれてるかを見ます。
会社は最初はバックアップしないので、どうやってユーザーを増やしていくかというと、みんな友達とか家族とか、会社の同僚に頼み込んで使ってもらって、良いサービスだったら使い続けてくれるんだよね。
あと友達紹介の機能があったら、それでどれだけの数の友達が新しくサービスを使い始めてくれるか、そしてそのユーザーがどれくらい定着するのか。1回あたり何分使ってくれるのか、そういう数字を見みますね。その数字が良かったら、スケールさせようと。
スケールさせるとはどういうことなのか、例えば10億円を使って全国でテレビコマーシャルのキャンペーンをやろうとか。あるいは我が社のサンフランシスコやベトナム、南米にある拠点を活用して、全世界で一斉にロールアウトしよう。これにも10億円以上のコストがかかります。
サービスが成功するかどうか、アクセルを踏むかどうかの審判を、年寄りにやらせるなということです。会社が本気になってバックアップするかどうかを、経営会議がやるなってことですね。経営会議の肩書きだけ偉い人ではなく、本当に偉い人……つまりはユーザーですね。ユーザーの審判を仰ぐことができる時代であるということです。
これを我々は「パーミッションレス」と呼んでます。つまり、許可なしですね。審判は経営会議でも社長でもなくユーザーがする、そういうやり方をしています。
ユーザーに審判を仰ぐ新しいやり方は増えてきてますね。もちろん全部じゃない。大きい資本が最初から絡むようなサービス、さっきの事例で言うと遺伝子検査サービスはラボを作らないと検査もできませんから。そして、ラボを作るのに何億円もかかりますので。こういったパーミッションレス型はそぐわないんですが、アプリとか多くのサービスにおいてこの方針で行っています。
後編はこちら
「マーケティングやビジネスモデルは後付けでいい」 南場智子氏が語った、DeNAがデザインにこだわる3つの理由