当たり前に感じている日本語字幕。知られざるTEDの翻訳フローとは。

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先日、あるTEDxのビデオに字幕をつけさせていただきました。 今回はそのときのことをまとめてみたいと思います。

YouTubeやTEDなど、動画サイトはもはや誰もが利用するほどに一般的なものになりました。特にTEDは英語学習のために利用している方も多いことでしょう。字幕もついているので英語学習にはもってこいです。テド トランスレイト2(出典:https://www.ted.com/)

オンラインビデオに字幕が付いているのは、なんだか当たり前のように感じますが、すこし前までは字幕の付いているビデオのほうが珍しかったように思います。今この瞬間にも多くのビデオに字幕が付けられている訳ですが、そのほとんどはボランティアの方が字幕をつけている事実を知っていたでしょうか。

ビデオに字幕がつくと、その情報にアクセスできる人の数が爆発的に増えます。また、聴覚障害者や難聴者の方もビデオを楽しむことができます。

字幕のあるトークは検索エンジンに記録され、トークそのものやTEDイベントがより広く人々の目に止まるようになります。

 

翻訳プラットホーム Amara.org

トランスレイト5字幕の作成はAmaraというサービスを利用して行われます。

字幕のクラウドソーシングを効率よく進めるためのサービスです。TEDに字幕をつける場合は、TEDのアカウントを利用してAmaraにログインします。翻訳を待っているたくさんのビデオがここにリストアップされています。

 

TEDに日本語字幕が付く流れ

TEDのビデオは翻訳したからといってすぐに付けられるものではありません。字幕が実際につくまでには、

1.翻訳 2.レビュー 3.承認

という3つのステップを踏む必要があります。

たくさんの準備を重ねて作られたTEDのスピーチです。もともとのスピーチの内容がなるべく100%伝わるよう多重のフィルタをかけて翻訳が行われます。

 

1. 翻訳

まずは翻訳をしていくのですが、その前にビデオの内容や、TEDスピーカーのバックグラウンドついて下調べをしておくことも重要です。

字幕作成の際は、字幕が長くなりすぎないように気をつけなければなりません。

ビデオに字幕が表示されている時間を気にしながら、読みやすい文字数で、かつ本来の意味を落とさないように翻訳・字幕付けを進めていきます。

また、適切なタイミングで字幕が表示されるように表示時間を調整します。タイトルの表記や、句読点、数字や単位のつけ方など、細かいルールが存在するので、それらについても目を通しておかなければなりません。

こうした細々した作業を助けてくれるのがAmaraです。

ブラウザ上に用意されたエディタで字幕作成をするのですが、こんなエディタになっています。トランスレイト4画面中央には字幕をつけるビデオ、左下が英語の書き起こし原稿、そのとなりが僕が日本語字幕を入力するスペースです。

このツールを使用することで字幕とその表示時間、文字数などをリアルタイムで確認しながら字幕を作成することが可能です。字幕を打ち込むと画面中央にあるビデオに字幕が反映され、同時に文字数の確認、表示時間の調整ができるようになっているのです。

気になる字幕部分にコメントを残すことでエディタ上でレビュワーとのコミュニケーションを取ることもできるようになっています。実際のビデオを参照しながら作業できるのでとても効率がよく、何より楽しいです。

 

2. レビュー(校正)

翻訳、字幕作成が終わったビデオはレビュー(校正)をしてもらう必要があり、レビュワーと呼ばれる資格のある人に校正をお願いすることになります。

誰でもレビューができるわけではなく、レビュワーとして認められるためには最低90時間分のビデオを翻訳することが条件になっています。僕が今回翻訳したビデオは15分程度のものだったのですが、それでも数時間かかりました。90時間だなんて、想像もつきません。

このように、ただ翻訳してもレビュワーからレビューがつかないことには字幕にならないわけですが、すぐに自分の翻訳にレビューがつくとは限りません。レビューを待っているビデオは世界中にたくさんあるので、自分のビデオをレビューしてもらうためにアピールしなければならないのです。

そこで利用されているのがFacebookのグループページになります。TED翻訳者のためのグループページが存在していて、そこでレビューをつけてもらえるようにお願いを投稿します。また、そのグループページはレビューのお願いだけでなく翻訳についての質問をする場としても機能していて、300人ほどのメンバーが助け合いながら翻訳作業を行っています。

そしてレビューをつけてくれる人が見つかってもまだ終わりではありません。レビュワーと連絡を取り合いながら、最終的な字幕はどんな形がいいか、議論しながら校正作業をすすめていきます。

このあたりは、クラウドソーシングの面白いところですね。お互い顔も見たことのないもの同士が、連絡を取り合いながら、時間をかけて互いの意見をすり合わせていきます。

僕の場合はメールでのやりとりだったので、この作業には数日かかりました。最終的にレビューが終わったときには、お互いに「お疲れ様でした」とメッセージを送り合い、そこに感謝が生まれたときは非常に嬉しい瞬間でした。

 

3. 承認

こうしてレビューを終えても、まだ最終工程が残っています。

各国語ごとにアサインされているボランティアのランゲージ・コーディネーターが最終チェックを行います。このステップが終わると、翻訳された字幕がTEDのサイトに公開されます。

ここで翻訳者、レビュワーとランゲージ・コーディネーターの3者の意見をすり合わせ、全員の合意がなされたら晴れて字幕が公開されるというわけです。トランスレイト3スプレッドシートを使用しながら、3人がコメントを重ね、合意の取れる翻訳に仕上げていきます。こうすることで、どのTEDトークを見ても全体的に均一な字幕のクオリティが保たれているのです。

 

字幕公開

こうして、3つのプロセスを経て(実際とても時間のかかる作業でした。)ようやく字幕が公開されます。時間がかかった分、喜びもひとしおです。

さらに嬉しいことに、そのビデオのTEDスピーカーから「翻訳と字幕作成ありがとう」と思いがけずメッセージとともに嬉しいプレゼントまで送っていただきました。

世界中に無数にあるビデオのうちのたった1本に日本語字幕がついたという、ただそれだけのことなのですが、その裏側にあったギフトの送り合いは感動的なものでした。

ちなみに、こちらがそのTEDxトークです。

ぜひ歯車アイコンから日本語字幕を選択していただけると、幸いです。

この記事を書いた学生ライター

Kano Shinnosuke
Kano Shinnosuke
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フィリピンで約1年間インターンを経験し、2015年は2年目の休学に入ってニュージーランドに滞在中。コーチング・NVC、経済学を学んでいます。

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