2015年、アメリカ連邦最高裁判所で同性婚を認める判決が下されました。
Facebookの打ち出したレインボーアイコンのキャンペーンで祝福ムードが盛り上がりましたが、同性婚容認に反対の人も少なくありません。
また、2020年には、黒人暴行死事件をきっかけに広まった「Black Lives Matter」運動とも融合し、大規模なデモが起きたことが皆さんの記憶にも新しいのではないでしょうか。
今回は、同性愛の是非を、倫理的な面からではなく、生物学的観点から見ていこうと思います。
まず、同性愛はLGBTのなかでも“L”=レズビアン(女性同性愛者)、“G”=ゲイ(男性同性愛者)のことを指します。
現在でも、同性愛が進化論に矛盾すると考える人は多くいます。一方で、その矛盾を盾に取って反対を主張する人もいます。
確かに、同性愛者は子孫を残すことができません。種の存続を生命の究極の目的とするならば、明らかに子孫を残す上で、不利な性質であるこの性的指向が淘汰されずに残っているのは一見不思議なことです。
同性愛者の存在意義は、生物学的に説明することができるのでしょうか。
そもそも、同性愛は先天的に発生するのでしょうか?それとも何かの環境要因によって後天的に起こるものなのでしょうか?様々な説が飛び交い、この論議には決着がつく気配はありません。
もし同性愛が先天的なものであるなら、遺伝的・進化論的な説明を抜きに語ることができないのは明らかです。 では後天的なものであるならどうでしょうか。
妊娠中の母体に過度のストレスがかかると、胎児がゲイになりやすいという報告があります。 実際、大戦中のドイツなどでは同性愛者が平時より多く産まれたと言われています。また、生後の周囲の環境や境遇が要因となって同性愛者になる場合もあるでしょう。いずれにしてもこれらは後天的な発生であり、進化論的な説明を適用することはできないと思うかもしれません。
しかし、例えばストレスがかかったときに同性愛者を生みやすい個体とそうでない個体があります。同性愛者が子孫を残す上で不利ならば、同性愛者当人の遺伝子はもちろんのこと、その母親の遺伝子も淘汰されてゆくことになります。
つまり、同性愛の発生が先天的なものであれ後天的なものであれ、多かれ少なかれ遺伝的要因が関わっているので進化論的な説明を避けては通れないということです。
同性愛と同じように、進化論的に矛盾すると長らく考えられてきた生態を持つ生き物がいます。アリやハチなどの社会性を持つ昆虫です。
アリやハチのコロニーには、働きアリや働きバチと呼ばれるグループがいます。驚くべきことに、これらのグループに属する個体は、ほとんどの場合自分の子孫を残すことはありません。これは「より多く子孫を残せるような性質を持つ遺伝子が生き残る」とする自然淘汰の法則と一見矛盾します。このため、アリなどの社会性昆虫の生態は、長い間進化論では説明できない例とされてきました。
そこに、「血縁選択説」というものが登場します。
ダーウィンの唱えた進化論は「進化は将来の世代に残る遺伝子数を最大化するような形で起こる」というものです。ここで見落としがちなのは、「遺伝子を残す」ことは、必ずしも「自分の子を残す」こととイコールではないということです。
親から見て子供は遺伝子の半分を共有しているため、近縁度は50%です。また、兄弟はやはり自分と遺伝子の50%を共有しているので、近縁度は50%です。つまり、自分が繁殖することはもちろん、血縁者の繁殖を助けることも、遺伝子を残す上で有効な手段ということになります。
アリの場合、女王アリと働きアリは親子関係にあります。自分が繁殖するよりも親を手伝うことによって血縁者を通してより多くの遺伝子を残すことができるのなら、社会的な生物はその方向に進化してゆくはずです。
(出典:http://ant.mocomoca.net/kurooo-coroni/kurooo-coroni.html)
また、似たような説として「群選択説」というものも存在します。これは「血縁」から「群」や「種」に範囲が広がったもので、自分が滅私奉公することにより群や種の仲間がより多く子孫を残すことができるのなら、その群や種の存続につながるという説です。
話をヒトに戻しましょう。 アリの説に基づくと、同性愛者の存在が血縁者や所属する集団の繁殖に貢献するなら、遺伝的に淘汰されてこなかった理由は説明がつくということになります。
社会的な生態を持つ動物のオスは、単独で生きる生物のそれらに比べて「メス化」していると言われます。
オスは、メスをめぐって争い、好戦的で社会にとって危険な存在であるため、社会的な動物のコミュニティでは「過度にオスらしいオス」は協調を乱す存在として性淘汰において排除される必要があります。
このため社会的な動物であるヒトのオスは、他の個体と協調し、育児行動などに積極的に参加するなど、「メス化」するのです。 実際に、チンパンジーの群れに同性愛の個体を入れたところ、群れの協調性が増したという研究報告もあります。
血縁者の繁殖支援はいくつかの種類に分けることができますが、その中に「受動的支援」というものがあります。 少し複雑なので例をあげて説明しましょう。
アフリカや中東で多くみられる遺伝病に、「鎌状赤血球症」というものがあります。この遺伝病の発症者は大抵は成人前に亡くなってしまいますが、発症していない保因者はマラリアに罹患しないという利点があります。
つまり、マラリアが流行する地域では、仮にこの遺伝病の発症によって一定数の子供が死亡したとしても、保因者がマラリアへの耐性を得られるのなら、損失を補って余りあるリターンがあるということになります。鎌状赤血球症の発症者たちは、自分たちの血縁者である保因者の生存・繁殖を助けるために、遺伝病の犠牲者になっていると言い換えることができます。
ヒトの社会において、メス化したオスのほうが生存・繁殖に適していると先ほど説明しました。仮に過度にメス化して同性愛者となる個体を生み出すとしても、それによって適度にメス化したオスを生み出せるなら、種としては損失を補って余りある見返りがあるということになります。つまり、同性愛者は他の個体の繁殖を助けるために自ら遺伝的に犠牲になっている個体だということです。
ここで述べた同性愛発生の理由は、数ある説の一つにすぎません。しかし、生物の営為において無駄なことは一つもありません。自然淘汰を乗り越えていま存在しているということは、存在するだけの理由と利益があるということなのです。つまり、進化論に矛盾するものだとして同性愛者の存在意義を否定するのはナンセンスだということになります。
同性愛をなぜ擁護するのか、あるいはなぜ反対するのか、いずれの立場であっても、自分なりの強い論理と意見を持っているべきです。
Facebookで虹色アイコンが流行りましたが、流行に流されただけの人や、よく分からないままなんとなく擁護側に立った人も少なくないのではないでしょうか。
この機会に、倫理的な根拠だけでなく科学的な見地からも自分の立場をバックアップできるよう、少し勉強してみるのも良いかもしれません。
「英語教育を通してアンビシャスな人たちの夢を叶える力になりたい」という夢を実現するため、日本人に最適な語学教育のあり方を求め米国ボストンに留学。現在は日本に帰国し、語学教育事業に注力中。帰国後も執筆の機会を頂けたことに感謝しています。大阪大学4年生。